東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の山本 大智 元大学院生と土岐 和多瑠 講師の研究グループは、クワガタムシの一種ネブトクワガタが特定の酵母との共生関係を喪失していること、それによって不特定の酵母の移動分散に寄与していることを発見しました。
クワガタムシの幼虫は腐朽材を食べて育ちます。多くの場合、特定の酵母と共生し、材の消化を助けてもらうと考えられています。メス成虫は特殊なポケット状の共生器官「マイカンギア」をもち、共生酵母を運び、子へ受け継ぎます。
本研究では、ネブトクワガタのマイカンギアを調べました。予想に反して、特定の酵母はいませんでしたが、合わせて20種に及ぶ酵母が見つかりました。このことから、ネブトクワガタにおいて、本来共生器官であったマイカンギアが、共生酵母ではなく、非共生酵母の分散に寄与する可能性が示唆されました。
本研究は、森林生態系において、昆虫の共生器官が非共生微生物の移動手段となり、豊かな生物多様性の維持に貢献し得ることを示しています。
本研究成果は、2023年3月14日午後7時(日本時間)付イギリス科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
・多くのクワガタムシは特定の酵母と共生する。
・共生酵母を子孫へ受け継ぐために、クワガタムシのメス成虫は腹部に特殊なポケット「マイカンギア」注1)をもち、共生酵母を運ぶ。
・しかし、ネブトクワガタ注2)のマイカンギアからは特定の酵母ではなく、木材などを住み処とする様々な酵母が見つかった。
・ネブトクワガタは、酵母との共生関係を喪失しており、本来共生酵母を運ぶためのマイカンギアが非共生酵母の移動手段となっている可能性が高い。
・森林の微生物の多様性は、このような昆虫によっても支えられているかもしれない。
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注1) マイカンギア:
Mycangia(mycetangia)。共生菌を保持・運搬する器官の名称。菌嚢(きんのう)とも称される。
注2) ネブトクワガタ:
本州以南に分布する小型のクワガタムシ。本種の属するネブトクワガタ属は、クワガタムシ科最大のグループで、アジア・オセアニアに230種以上が分布する。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Presence of non-symbiotic yeasts in a symbiont-transferring organ of a stag beetle that lacks yeast symbionts found in other stag beetles
著者:Daichi Yamamoto (山本 大智:名古屋大学大学院生命農学研究科 元博士前期課程学生), Wataru Toki(土岐 和多瑠:名古屋大学大学院生命農学研究科 講師)
DOI: 10.1038/s41598-023-30607-x
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-023-30607-x
大学院生命農学研究科 土岐 和多瑠 講師
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