農学
2023.04.04
高CO2環境でイネを増収させる「コシヒカリ」由来の遺伝子を発見 ―気候変動下での持続可能な稲作に貢献―
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学生物機能開発利用センターの辻 寛之 教授は、国際農研、農研機構、横浜市立大学、理化学研究所、明治大学、かずさDNA研究所の共同研究グループと共に、稲穂の基となる腋芽2)の生長を促し、穂数の増加に働く遺伝子MP3を「コシヒカリ」から同定しました。MP3の遺伝子配列(遺伝子型)はイネの品種ごとに異なり、「コシヒカリ」に代表される日本イネの一部は、インディカイネと呼ばれる海外の品種には見られない、穂数を増やす遺伝子型であることが分かりました。日本の多収品種「タカナリ」は、インディカ型のMP3を持つことから、「コシヒカリ」型のMP3と入れ替えたイネを開発したところ、穂数が20~30%増加しました。さらに、将来予想される高CO2条件を再現した水田試験において、開発したイネは「タカナリ」に比べて6%増収することを明らかにしました。世界的な気候変動が進行する中で、持続可能な作物生産を実現するための技術開発が喫緊の課題となっています。MP3はその技術の1つとして、将来の高CO2環境でのイネの安定生産に貢献することが期待されます。
本研究の成果は、国際科学専門誌「The Plant Journal」オンライン版(日本時間2023年3月28日)に掲載されました。
・ イネの穂数を増加させる新規遺伝子MP3(MORE PANICLES 3)を「コシヒカリ」から初めて同定
・ 本遺伝子を導入したインディカイネ1)は高CO2条件下で元品種より多収となることを確認
・ 大気中のCO2濃度上昇が続く気候変動下で国内外の稲作の安定・多収への貢献が期待
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1) インディカイネ:イネ(アジアイネ;Oryza sativa)は、大きくインディカ、ジャポニカの2つの亜種に分類されます。インディカは高温多湿な地域での栽培に適しており、インド・東南アジア・中国南部などが主な産地です。ジャポニカは比較的寒冷な気候に強く、日本、朝鮮半島、中国北部などで主に栽培されています。
2) 腋芽:葉の付け根にできる芽のことです。
<論文著者> Takai, T., Taniguchi, Y., Takahashi, M., Nagasaki, H., Yamamoto, E., Hirose, S., Hara, N., Akashi, H., Ito, J., Arai-Sanoh, Y., Hori, K., Fukuoka, S., Sakai, H., Tokida, T., Usui, Y., Nakamura, H., Kawamura, K., Asai, H., Ishizaki, T., Maruyama, K., Mochida, K., Kobayashi, N., Kondo, M., Tsuji, H., Tsujimoto, Y., Hasegawa, T., Uga, Y.
<論文タイトル> MORE PANICLES 3, a natural allele of OsTB1/FC1, impacts rice yield in paddy fields at elevated CO2 levels
<雑誌> The Plant Journal
DOI : https://doi.org/10.1111/tpj.16143