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化学

2023.04.21

硫黄―炭素二重結合の直接ラジカル重合の開発 ~さまざまなビニルポリマーへの分解性の付与~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の渡邉 大展 助教、上垣外 正己 教授は、硫黄―炭素二重結合をもつチオアミドが、炭素―炭素二重結合をもつ広範囲のビニル化合物と直接ラジカル共重合することを見出し、さまざまなビニルポリマーへの分解性の付与に成功しました。
ラジカル重合は、広範囲のビニル化合物の重合を可能にし、さまざまな性質のポリマーを与えるため、工業的に最も広く利用されている重合法の一つです。しかしラジカル重合は、C=C以外の二重結合を重合するのは難しく、ポリマーの主鎖に炭素以外のヘテロ原子を直接組み込むことは困難でした。
本研究では、硫黄―炭素二重結合(S=C)をもつチオアミドの安定性と反応性に着目しラジカル重合を検討したところ、広範囲のビニルモノマーとラジカル共重合が可能なことを見出しました。これにより、主鎖に硫黄原子がチオエーテル結合で組み込まれたさまざまなビニルポリマーが合成可能なことがわかりました。主鎖にヘテロ原子注13)が導入されたことで、ビニルポリマーの物性が変わり、分解性も付与され、新たなビニルポリマー材料の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2023年4月21日付アメリカ化学会誌「J. Am. Chem. Soc.」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・硫黄―炭素二重結合(S=C)をもつチオアミド注1)類を合成し、炭素―炭素二重結合(C=C)をもつビニル化合物注2)とラジカル共重合注3)することを見出した。
・チオアミド類は空気中で安定に取り扱い可能で、かつそのS=C結合はラジカル付加反応注4)により共重合し、ビニルポリマー注5)の主鎖に硫黄原子がチオエーテル結合注6)として組み込まれることがわかった。
・ビニル化合物はスチレン注7)、酢酸ビニル注8)、アクリル酸エステル注9)、アクリルアミド注10)など工業的に利用されている広範囲のビニルモノマーが利用可能であった。
・リビングラジカル重合注11)により、ポリマーの分子量の制御も可能であった。
・チオアミドの共重合により、ポリマーのガラス転移温度注12)が上昇する一方、主鎖のチオエーテル結合に基づくさまざまな分解性ビニルポリマーの合成が可能となった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)チオアミド:
硫黄と炭素と窒素が、S=C-Nの順に結合した化合物。

 

注2)ビニル化合物:
ビニル基(C=C)から成る化合物で、高分子化合物(ポリマー)の原料として広く用いられる。

 

注3)ラジカル共重合:
ラジカル重合は、不対電子をもつ化学種であるラジカルによって、ビニル化合物などの小分子化合物がつながってポリマーを与える反応。共重合は、2種類以上の小分子化合物が一緒につながってポリマーを与える反応。

 

注4)ラジカル付加反応:
ラジカルが、二重結合などの多重結合に付加する反応。

 

注5)ビニルポリマー:
ビニル化合物を重合することで得られるポリマー。主鎖はビニル基(C=C)が付加反応を繰り返して重合するので、通常は炭素―炭素単結合(C-C)のみから成る。

注6)チオエーテル結合:
C-S-Cから成る結合。S-C結合は、C-C結合より切れやすい。

 

注7)スチレン:
ビニル基にベンゼン環がついた化合物。化学式は図1を参照。重合体のポリスチレンは、透明容器や発泡スチロールなどさまざまなプラスチック材料に用いられる。

 

注8)酢酸ビニル:
ビニル基に酢酸がついた化合物。化学式は図1を参照。重合体のポリ酢酸ビニルは、その後の反応によりポリビニルアルコールへと変換され、接着剤、繊維、偏光フィルムなどに用いられる。

 

注9)アクリル酸エステル:
ビニル基を有するカルボン酸のエステル化合物。化学式は図1を参照。重合体のポリアクリル酸エステルは、塗料、接着剤、樹脂などに用いられる。

 
注10)アクリルアミド:
ビニル基を有するアミド化合物。化学式は図1を参照。重合体のポリアクリルアミドは、親水性の樹脂として凝集剤などに用いられる。

 

注11)リビングラジカル重合:
ラジカル重合において、反応中にポリマー末端が活性を保ったまま伸び続ける重合反応で、ポリマーの分子量を制御することができる。

 
注12)ガラス転移温度:
非晶性のプラスチックなどがガラス転移を起こす温度。この温度を超えると、プラスチックはガラス状態からゴム状態になり、やわらかくなる。
 

注13)ヘテロ原子:
有機化学の分野において、分子に含まれる炭素および水素以外の原子。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Direct Radical Copolymerizations of Thioamides to Generate Vinyl Polymers with Degradable Thioether Bonds in the Backbones
(チオアミドの直接ラジカル共重合による主鎖に分解性チオエーテル結合をもつビニルポリマーの合成)
著者:H. Watanabe(助教)、M. Kamigaito(教授)
DOI: 10.1021/jacs.3c01796
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c01796

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 上垣外 正己 教授
http://chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/polymer2/index.html