国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実 教授、常松 裕史 博士後期課程学生らの研究グループは、高い近赤外反射性能をもつ新しい透明導電体ナノシート(Cs2.7W11O35-d)を発見し、これをガラス上にコートすることで、世界最高性能の近赤外反射率53%と遮熱効果注3)を示す日射遮蔽膜(太陽熱カットフィルム)注4)の開発に成功しました。
本研究で開発した日射遮蔽膜は、可視光に透明であるため、可視光を取り込みつつ、太陽光中の熱源となる近赤外光を効率的にカットできます。今後、本技術を建築物、自動車の窓ガラスに適用することにより、建築物、自動車の冷房負荷削減、空調の省エネ化につながる重要な技術に発展するものと期待されます。
本研究成果は、2023年5月16日付アメリカ化学会科学誌「ACS Nano」のオンライン速報版に掲載されました。
【ポイント】
・高い近赤外反射性能をもつ透明導電体注1)ナノシート注2)を発見。
・ナノシートコートガラスで世界最高性能の近赤外反射率53%と太陽熱カットを実現。
・建築物、自動車の高性能遮熱エコガラスへの応用。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)透明導電体:
高い可視光透過性と導電性を有する物質。不透明な導電性物質は各種金属など数多く存在するが、透明な導電性物質は非常に珍しく、一部の酸化物やナノ構造体(銀ナノワイヤー、グラフェンなど)に限定される。
注2)ナノシート:
原子1層、数層からなる物質。代表する物質としては、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)、酸化物ナノシートなどがある。
注3)遮熱効果:
太陽光(熱)を遮蔽することによる室温上昇の抑制効果。透明な窓ガラスでは、太陽光のうち熱源となる近赤外光が透過し、遮熱効果が低い。他方、近赤外光を遮蔽する日射遮蔽膜を利用し、近赤外光をカットすることで遮熱効果を高めることができる。
注4)日射遮蔽膜:
太陽光のうち熱源となる近赤外光を遮蔽する薄膜(太陽熱カットフィルム)。建築物や自動車用の窓材として使用されることが多く、室内の明るさを維持しながら、夏場の空調負荷を低減することができる。
雑誌名:ACS Nano
論文タイトル:Gigantic Thermal Shielding in 2D Oxide Nanosheets
著者:Hirofumi Tsunematsu (名古屋大学 大学院生), Yue Shi (名古屋大学 研究員), Eisuke Yamamoto (名古屋大学 助教), Makoto Kobayashi (名古屋大学 准教授),Tomohiro Yoshida (協力研究員), Minoru Osada (名古屋大学 教授)
DOI:10.1021/acsnano.3c00815
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.3c00815