化学
2023.05.22
ダイヤモンド構造と芳香族分子を結合させ新たな機能性分子を創製
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の八木 亜樹子 特任准教授、伊丹 健一郎 教授、同大学院理学研究科の吉原 空駆 博士前期課程学生(研究当時)らは、ダイヤモンド構造をもつアダマンタン分子を芳香族分子に密に結合させる(= 縮環させる)ことで、新たな分子群の「アダマンタン縮環芳香族分子」を創製しました。
芳香族分子は多くの医薬品や電子材料に見られる分子群で、他の分子骨格で修飾することでその機能を変化させることができるため、その修飾法は常に開発が求められています。
本研究では、アダマンタンという飽和炭化水素を芳香族分子に縮環させる手法を開発し、30種類以上のアダマンタン縮環芳香族分子を合成してその構造的特徴や電子的性質を明らかにしました。その結果、アダマンタン縮環により、芳香族分子の有機溶媒に対する溶解性が劇的に向上することや、通常は不安定なカルボカチオン種注6)が安定化されることを見出しました。
本研究成果は、芳香族分子の新たな修飾法であるだけでなく、創製が期待されている「ダイヤモンド-グラフェンハイブリッド物質」の精密合成につながる画期的なものと言えます。
2023年5月19日付アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版に掲載されました。
・ ダイヤモンド構造をもつ機能性芳香族分子注1)の「アダマンタン縮環芳香族分子注2)」の合成に成功
・ アダマンタン骨格注3)を縮環注4)させることによって芳香族分子の性質が変化することを発見
・ 両者の特性を併せもつと期待される未踏材料である「ダイヤモンド-グラフェン ハイブリッド物質注5)」の創製につながる成果
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)芳香族分子:
ベンゼン(C6H6)を代表とする、環状の不飽和有機化合物。硫黄原子を含むチオフェンや酸素原子を含むフランなども芳香族分子である。
注2)アダマンタン縮環芳香族分子:
アダマンタン構造が2組以上の炭素-炭素結合で芳香族分子に結合した構造をもつ分子。結合部分には、アダマンタン構造と芳香族分子構造の間に環状の構造が形成されている。
注3)アダマンタン骨格:
アダマンタンの分子構造を構築する炭素骨格を表す。
注4)縮環:
分子骨格同士が2組以上の結合を介して繋がれ、連結部分に4、5、6員環などの環状構造が形成されていること。縮環部分は、環状飽和炭化水素の構造である場合や芳香族分子の構造である場合、ヘテロ原子が含まれる場合など様々である。
注5)ダイヤモンド-グラフェン ハイブリッド物質:
ダイヤモンドとグラフェンが連結した物質のこと。新たな炭素物質として近年注目を集めているが、未だ創製されていない。理論研究によって、ダイヤモンド由来の高い熱伝導性をもつグラフェン材料となることや、特異なスピン特性をもつことなどが推測されている。
注6)カルボカチオン種:
分子構造の炭素原子上に電子不足状態が生じている化学種。分子において、炭素原子の周囲には8電子存在する状態が電子的中性状態であるが、カルボカチオン種では1つ以上の炭素原子の周囲が6電子となった状態になる。何かしらのアニオン種と相互作用した状態で存在する。
雑誌名:アメリカ科学誌「Journal of the American Chemical Society」
論文タイトル:“Adamantane-annulation to Arenes: A Strategy for Property Modulation of Aromatic π-systems ”
著者:吉原 空駆、周戸 大季、八木 亜樹子*、伊丹 健一郎*(*は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1021/jacs.3c02788
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c02788
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
トランスフォーマティブ生命分子研究所 伊丹 健一郎 教授、八木 亜樹子 特任准教授
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/wordpress/