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国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの笠原竜四郎 特任准教授の研究グループは、植物の花粉管誘引に必要な助細胞で機能している遺伝子を発現させる暗号(SaeM  cis-element注1))を解読しました。
植物の助細胞で働く遺伝子であるMYB98 は、花粉管誘引に必須であることが笠原らによって2005年に報告されていましたが(Kasahara et al.,2005)、このMYB98 を発現させる暗号は解読できていませんでした。
そこで、笠原らは2005年頃よりMYB98 遺伝子の上流のプロモーター領域注2)に着目し、解析を続けてきました。18年の歳月を費やし解析を続けた結果、MYB98 を発現させるのに重要な16ヌクレオチド塩基配列を同定し(CATTTACACATTAAAA)、SaeM (SC-specific activation element of MYB98 )と名づけました。次にこの16塩基配列を含む84塩基のみで助細胞にて遺伝子を発現させることができました。さらに、シロイヌナズナ以外の植物種でもSaeM が保存されていて、SaeM は種を超えて助細胞遺伝子を発現させるのに必要な暗号であることもわかりました。
被子植物の場合、植物種が変われば花粉管誘引に生殖隔離が生じ、種子形成不全をもたらすことが知られていますが、SaeM を調整することによりこの生殖隔離を打破して有用な雑種を交雑育種で獲得するなど、今後の作物の品種改良に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2023年5月8日付国際学術雑誌「Frontiers in Plant Biology」に掲載されました。

 

【ポイント】

・助細胞で発現する花粉管誘引に必要な遺伝子、MYB98 遺伝子を発現させるための暗号である16塩基配列(SaeM )を解読した。
SaeM を含むたった84塩基で助細胞遺伝子が発現することが判明した。
・今回試験したシロイヌナズナ以外の全てのアブラナ科植物でSaeM が同定され、SaeM は種を超えて助細胞遺伝子を発現させるのに必要な暗号であることがわかった。
SaeM を他の植物で活用し、異種の植物との花粉管誘引の障壁を打破することで広範囲の交雑育種が可能になる。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)cis-element:
プロモーター領域にある、特定の遺伝子を発現させるために必要な塩基配列を指す。本研究ではこの配列がMYB98 遺伝子の上流702-512bps領域内で同定された。

 

注2)プロモーター領域:
真核生物の全てにあるDNA上の領域。大半の遺伝子のコーディング領域の直前の上流1000bp程度の領域である。本研究のMYB98 遺伝子も直前にこの領域が存在する。

 

【論文情報】

雑誌名:Frontiers in Plant Science
論文タイトル:Discovery of a cis-regulatory element SaeM involved in
dynamic regulation of synergid-specific MYB98
(助細胞特異的遺伝子MYB98 の動的制御に関わるシス因子SaeM の発見)
著者:Prakash Babu Adhikari, Shaowei Zhu, Xiaoyan Liu, Chen Huang, Liyang Xie, Xiaoyan Wu, Jiale He, Nobutaka Mitsuda, Benjamin Peters, Lynette Brownfield, Shingo Nagawa and Ryushiro Dora Kasahara
(パラカッシュ バブ アドヒカリ、シャオウェイ ズー、シャオエン リュウ、チェン ファン、 リーヤン シエ、シャオエン ウー、ジャール ハー、光田展隆、ベンジャミン ピーター、リネット ブラウンフィールド、名川 信吾、笠原 竜四郎
共同責任著者 (本学関係者は下線)
DOI: 10.3389/fpls.2023.1177058
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2023.1177058/full

 

【研究代表者】

生物機能開発利用研究センター 笠原 竜四郎 特任准教授
http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~graft/member.html

 

【関連情報】

インタビュー記事「ついに解読!! 花のタネをつくる16文字の暗号」(名古屋大学研究フロントライン)