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医歯薬学

2023.05.16

腎機能と癌リスクの関連及び、腎機能が他の発癌リスク因子に及ぼす影響 〜腎機能が低下するほど喫煙の発癌リスクが上昇することを発見〜

名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学の倉沢史門(臨床研究教育学 助教)、今泉貴広 特任助教、丸山彰一 教授らの研究グループは、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC 研究)の追跡データを用いたコホート研究*1 として、腎機能と癌罹患・癌死亡の関連、さらに腎機能の低下している患者と保たれている患者での発癌リスク因子の違いについて調査しました。その結果、腎機能の指標である推定糸球体濾過量*2(eGFR)の中等度低値と高値は発癌リスクに関連すること、eGFR 高値は高い癌死亡リスクに関連すること、腎機能が低下している人ほど喫煙による発癌リスクが高くなることを明らかにしました。この研究は、文部科学省科学研究費 学術変革領域研究 「コホート・生体試料支援プラットフォーム(CoBiA)」による支援を受けて、J-MICC 研究の松尾恵太郎 主任研究者(愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野 分野長)、若井建志 中央事務局長(名古屋大学大学院医学系研究科予防医学 教授)らとの共同研究として行ったものです。
慢性腎臓病*3 は日本の成人の約 8 人に 1 人が有する国民病です。これまでの研究から腎機能低下が癌罹患に関連するとの報告がありましたが、全ての研究結果で一致はしておらず、日本人を対象とした研究は限られていました。また、腎機能低下が他の発癌リスク因子(喫煙、飲酒、食習慣、肥満など)に及ぼす影響についても分かっていませんでした。
本研究グループは、J-MICC 研究の参加者約 5.5 万人のおよそ 10 年間の追跡調査によって、eGFRと癌罹患・癌死亡の関連の評価と、腎機能低下の有無での発癌リスクの違いの評価を行いました。eGFR60〜74 ml/min/1.73m2 の人と比較して、eGFR 中等度低値(30〜44 ml/min/1.73m2)は 36%高い発癌リスク、eGFR 高値(≧75 ml/min/1.73m2)は 9〜18%高い発癌リスクに関連し、eGFR は低くても高くても発癌リスクであるという U 字型の関連であることがわかりました。また、喫煙は腎機能の保たれた人にとっても発癌のリスクですが、腎機能が低下するほどそのリスクが大きくなることを発見しました。
これらの結果は、発癌リスクの高い人に積極的にスクリーニング検査*4 を行うなどの医療の最適化や、特に腎機能の低下している人に重点的に禁煙の支援を行うなどの施策策定に役立てることができます。
本研究成果は、2023 年 5 月 9 日付オンライン版『International Journal of Cancer』に掲載されました。

 

【ポイント】

○ 腎機能の指標である推定糸球体濾過量の中等度低値と高値は高い発癌リスクに関連した。
○ 喫煙による発癌リスクは腎機能が低下するほど高くなった。
○ これらの研究結果は、特に発癌リスクの高い集団を特定し、積極的なスクリーニング検査をしたり、腎機能の低下した患者に重点的に禁煙の支援を行うなどの医療の最適化に役立てることができる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 コホート(コーホート)研究:特定の集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を評価・比較する観察研究の手法です。
*2 糸球体濾過量:単位時間あたりに腎臓の糸球体という部分で濾過される血液の量のことです。簡単に測定することができないため、血清クレアチニン濃度、年齢、性別から計算した推定糸球体濾過量(eGFR)が腎機能の指標として広く用いられています。
*3 慢性腎臓病:慢性的に腎機能の低下(eGFR<60 ml/min/1.73m2)または尿異常が続く状態を指します。
*4 スクリーニング検査:無症状の人を対象に、疾病の疑いのある者を発見することを目的に行う検査のことです。

 

【論文情報】

掲雑誌名:International Journal of Cancer
論文タイトル : Association of kidney function with cancer incidence and its influence on cancer risk of smoking: the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study
著者:
Shimon Kurasawa,1,2 Takahiro Imaizumi,1,3 Shoichi Maruyama,1 Keitaro Tanaka,4 Yoko Kubo,5 Mako Nagayoshi,5 Hiroaki Ikezaki,6,7 Sadao Suzuki,8 Teruhide Koyama,9 Chihaya Koriyama,10 Aya Kadota,11 Sakurako Katsuura-Kamano,12 Kiyonori Kuriki,13 Kenji Wakai,5 Keitaro Matsuo14,15
所属:
1 Department of Nephrology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Clinical Research Education, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3 Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
4 Department of Preventive Medicine, Faculty of Medicine, Saga University, Saga, Japan
5 Department of Preventive Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
6 Department of General Internal Medicine, Kyushu University Hospital, Fukuoka, Japan
7 Department of Comprehensive General Internal Medicine, Kyushu University Faculty of Medical Sciences, Fukuoka, Japan
8 Department of Public Health, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya, Japan
9 Department of Epidemiology for Community Health and Medicine, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto, Japan
10 Department of Epidemiology and Preventive Medicine, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima, Japan
11 NCD Epidemiology Research Center, Shiga University of Medical Science, Otsu, Japan
12 Department of Preventive Medicine, Tokushima University Graduate School of Biomedical Sciences, Tokushima, Japan
13 Laboratory of Public Health, Division of Nutritional Sciences, School of Food and Nutritional Sciences, University of Shizuoka, Shizuoka, Japan
14 Division of Cancer Epidemiology and Prevention, Aichi Cancer Center, Nagoya, Japan
15 Department of Cancer Epidemiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

 

DOI: 10.1002/ijc.34554

 

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Int_230516en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 倉沢 史門 助教

https://www.nagoya-kidney.jp/