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医歯薬学

2023.06.15

フソバクテリウム細菌感染は子宮内膜症の発症を誘導する - 子宮内膜症治療に新たな光!-

名古屋大学大学院医学系研究科・腫瘍生物学分野の近藤豊(こんどう ゆたか)教授、名古屋大学医学部附属病院・産婦人科の村岡彩子(むらおか あやこ)助教(筆頭著者)、梶山広明(かじやま ひろあき)教授らの研究グループは、名古屋大学大学院医学系研究科・神経遺伝情報学分野の大野欽司(おおの きんじ)教授らとの共同研究により、子宮内膜症の発症を促す細菌フソバクテリウム(Fusobacterium ※1 を同定し、抗生剤治療が子宮内膜症の非ホルモン性新規治療薬となる可能性を発見しました。
子宮内膜症は、生殖年齢女性の約 10%が罹患し、生涯に渡り骨盤痛、不妊症、癌化など様々な問題を引き起こす疾患です。とりわけ少子化への対応が喫緊の課題である現代において、子宮内膜症の克服は重要な課題のひとつです。子宮内膜症の機序は様々提唱されていますが、これまで明らかにされていませんでした。現在行われている治療法はホルモン剤内服や手術療法ですが、どちらの治療も薬剤の副作用や術後の高い再発率などが問題となっています。本研究では、世界で初めて子宮内膜症の発症メカニズムとして有力な機序のひとつを解明しました。
まず、子宮内膜症患者の子宮内膜に存在する線維芽細胞で高い発現を示すタンパク質トランスジェリン(transgelin (TAGLN))※2 に着目しました。TAGLN を発現する筋線維芽細胞は子宮内膜症の発症を促す性質を示すことを見つけました。驚いたことに子宮内膜症患者では、これまでほぼ無菌状態であると考えられていた子宮内膜においてFusobacterium という細菌が高頻度に存在していることを発見しました。Fusobacterium は口腔内の常在菌で、歯周炎の原因菌として知られていますが、Fusobacterium の感染により子宮内膜では TAGLN の発現が上昇することがわかりました。そこで子宮内膜症モデルマウスを作製し、Fusobacterium の感染実験を行った結果、子宮内膜症病変の形成が有意に促進し、またFusobacterium に有効な抗生剤治療は内膜症病変の形成を抑制することがわかりました。
現在、子宮内膜症患者への抗生剤治療の有効性を検討するため、名古屋大学医学部附属病院 産婦人科で特定臨床研究を進めています。本研究は米科学誌「Science Translational Medicine」(2023 年6 月 14 日付(米国東部時間))に掲載されました(同掲載誌の表紙に採用されました)。

 

【ポイント】

○ 子宮内膜症は、生殖年齢女性の約 10%が罹患し、生涯に渡り骨盤痛、不妊症、癌化など様々な問題を引き起こす疾患で、その疾患発症メカニズムは研究段階です。
○ 子宮内膜症の治療法はホルモン剤内服や手術療法ですが、どちらの治療も薬剤の副作用や術後の高い再発率などが問題となっています。
○ 少子化への対応が喫緊の課題である現代において、子宮内膜症の克服は重要な課題のひとつです。
○ 本研究グループは子宮内膜症患者の子宮内膜線維芽細胞※3 で高い発現を示す一方で、正常な子宮内膜線維芽細胞では発現の低い TAGLN に着目しました。TAGLN は子宮内膜症の発症に重要な増殖、遊走、腹膜中皮細胞への接着を亢進させる筋線維芽細胞の性質を示すことを発見しました。
○ TAGLN の発現誘導因子として TGF-βに着目し、子宮内膜微小環境内の細菌叢解析から子宮内膜症患者の子宮内に有意に発現の多いFusobacterium を発見しました。この細菌は口腔内や腸管内にも存在し、大腸がんの悪性化に関与する菌体として知られています。
○ 子宮内膜症モデルマウスにFusobacterium を経腟および血行感染させ、子宮内膜症病変形成の増悪を確認しました。また抗生剤治療が病変の治療方法となりうることを発見しました。
Fusobacterium が子宮内膜微小環境を変化させることで最終的に TAGLN 高発現の子宮内膜線維芽細胞を生み出すことが子宮内膜症の発症メカニズムの重要な要素であることを発見しました。
○ 抗生剤治療が子宮内膜症患者にとって非ホルモン剤投薬治療としての新規治療戦略となる可能性を見出しました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 フソバクテリウム(Fusobacterium
口腔内では歯槽膿漏、腸管内では大腸癌の発症に関与することが示唆される細菌の一種。

 

※2 トランスジェリン(transgelin(TAGLN))
線維芽細胞が活性化され細胞収縮能や増殖能力を獲得した筋線維芽細胞のマーカー遺伝子。繊維状アクチンと結合して細胞収縮に寄与するタンパクである。

 

※3 子宮内膜線維芽細胞
子宮内膜を構成する細胞の一種で、子宮内膜病変部でもこの細胞が主体となり増殖していることから、子宮内膜症発症に関して鍵となる細胞と考えられる。

 

【論文情報】

掲載誌名:Science Transrational Medicine
論 文 タ イ ト ル : Phenotypic Transition of Endometrial Fibroblasts caused by Fusobacterium Infection facilitates the Development of Endometriosis
著者:
Ayako Muraoka1,2, Miho Suzuki1, Tomonari Hamaguchi3, Shinya Watanabe1, Kenta Iijima1, Yoshiteru Murofushi1, Keiko Shinjo1, Satoko Osuka2, Yumi Hariyama4, Mikako Ito3, Kinji Ohno3, Tohru Kiyono5, Satoru Kyo6, Akira Iwase7, Fumitaka Kikkawa2, Hiroaki Kajiyama2, and Yutaka Kondo1,8
所属:
1Division of Cancer Biology, Nagoya University Graduate School of Medicine; 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan.
2Department of Obstetrics and Gynecology, Nagoya University Graduate School of Medicine; 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan.
3Division of Neurogenetics, Nagoya University Graduate School of Medicine; 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya 466-8550, Japan.
4Department of Obstetrics and Gynecology, Toyota Kosei Hospital; 500-1, Ihohara, Zyosui-cho, Toyota 470-0396, Japan.
5Project for Prevention of HPV-related Cancer, Exploratory Oncology Research & Clinical Trial Center, National Cancer Center; Kashiwanoha 6-5-1, Kashiwa, 277-8577, Japan.
6Department of Obstetrics and Gynecology, Shimane University Faculty of Medicine; 89-1, Enya-Cho, Izumo 693-8501, Japan.
7Department of Obstetrics and Gynecology, Gunma University Graduate School of Medicine; 3-39-22 Showa-machi, Maebashi 371-8511, Japan.
8Institute for Glyco-core Research (iGCORE), Nagoya University; Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan.

 

DOI: 10.1126/scitranslmed.add1531

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_230615en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 近藤 豊 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/cancerbio/