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化学

2023.06.13

二残基ずつペプチド鎖を伸長できる超高速マイクロフロー合成法を開発 ~医薬品候補化合物の創出、医薬品生産の効率化に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院創薬科学研究科の杉澤 直斗 博士後期課程学生、布施 新一郎 教授らの研究グループは、医薬品として重要なペプチドを短時間、低コストで、廃棄物量が少なく、容易な精製操作で合成する方法の開発に成功しました。タンパク質医薬品と低分子医薬品の双方の長所を併せもつと期待されていることから、ペプチド医薬品は脚光を浴びています。しかしながら、低分子医薬品と比べると生産コストが高く、精製操作が容易なペプチド固相合成法注3)では特にこのコストが高く、しかも多量の廃棄物を排出します。一方、低コストで、より廃棄物量が少ない液相合成法では、精製操作が煩雑となることが問題となっていました。アミノ酸誘導体のNCAは、外部から反応剤を添加せずともペプチド鎖を伸長でき、しかも二酸化炭素しか排出しないことから、ペプチド鎖伸長への利用が長年試みられてきました。しかしながら、不安定なNCAは副反応を惹起しやすく実用的な合成法はありませんでした。
本研究では、微小な流路を反応場とするマイクロフロー合成法を駆使し、NCAの副反応を抑えつつ、短時間、低コストで、廃棄物量を削減しつつ目的物を得ることに成功しました。一度のフロー合成操作で2つのアミノ酸をペプチドに連結でき、精製操作も極めて簡便で、様々なペプチドの合成に利用可能であるため、医薬品候補化合物の創出、および医薬品生産の効率化が期待されます。
本研究成果は、2023年6月12日付、イギリス王立化学会の国際的学術雑誌「Chemical Science」に掲載されました。

 

【ポイント】

・医薬品候補として重要なペプチドを短時間、低コストで、廃棄物量が少なく、容易な精製操作で合成する方法を開発。
・アミノ酸N-カルボン酸無水物(NCA)注1)を用いる実用的なペプチド鎖伸長法の開発に初めて成功。
・不安定なNCAの調製、反応においてマイクロフロー合成法注2)を駆使して副反応を抑制。
・3種類の入手容易な市販アミノ酸を流路に注入することで、流路出口から3つのアミノ酸からなるペプチドを得ることに成功。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)アミノ酸N-カルボン酸無水物(NCA):
アミノ酸がC=Oを介して環状になった分子。NCAに塩基を作用させると環の開裂を伴って重合し、多数のアミノ酸がペプチド結合(アミノ酸同士の結合)により連結したポリペプチドを与える。

 

注2)マイクロフロー合成法:
微小な流路(通常内径1 mm以内)に溶液を流通させながら合成する手法。フラスコを用いる合成法と異なり、数ミリ秒で溶液を混合することが可能なため、短い反応時間を精密に制御できる。

 

注3)ペプチド固相合成法:
樹脂(固相)に対して、反応剤やアミノ酸の溶液を作用させて、樹脂上でアミノ酸を連結することでペプチド鎖を伸長する手法。溶媒等で樹脂を洗浄するだけで簡便に精製が行える一方で、過剰量の反応剤や原料を要することが多く、また樹脂自体が高価なため、高コストで廃棄物量が多いといった問題をもつ。

 

【論文情報】

雑誌名:Chemical Science
論文タイトル:Rapid and column-chromatography-free peptide chain elongation via a one-flow, three-component coupling approach
著者:Naoto Sugisawa, Akira Ando, and Shinichiro Fuse*
DOI:10.1039/d3sc01333b
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2023/sc/d3sc01333b

 

【研究代表者】

大学院創薬科学研究科 布施 新一郎 教授
http://www.ps.nagoya-u.ac.jp/lab_pages/chemprocess/

 

【関連情報】

インタビュー記事「マイクロフローで『わざわざ難しいものをつくる』そのココロは?」(名古屋大学研究フロントライン)