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生物学

2023.06.15

抗体を使って細胞内のタンパク質を操る! ~機能的小分子抗体による標的タンパク質分解系~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の小川 佳孝 博士後期課程学生、西村 浩平 講師、小原 圭介 講師、嘉村 巧 教授らの研究グループは、小さな抗体分子を細胞内に導入することで、その抗体が結合したタンパク質の分解を誘導する方法の開発に成功しました。
オーキシンデグロン(AID)法は、細胞内の標的とするタンパク質を植物ホルモンであるオーキシン注2)を使い、分解する方法です。これまで、分解標的となるタンパク質にはAID-tagという目印を付加する必要がありました。本研究では、人工的に生み出された小さな抗体分子(小分子抗体)に注目し、この小分子抗体の一種であるNanobody注3)とAID法を組み合わせることで、抗体に認識させた標的タンパク質の分解を誘導できることを発見しました。この方法では、細胞質や核、そして細胞内膜といった、細胞内の様々な場所で働くタンパク質を標的とすることができ、分解することによって、それらタンパク質の働きを失わせることが可能であることを示しました。本研究では、真核生物のモデル生物として出芽酵母の細胞を用いていますが、原理的にはマウスやヒトを含めた様々な哺乳動物にも応用することが可能であると考えられます。 
本研究の開発方法により、細胞内の様々なタンパク質を抗体によって認識させ、分解制御することが可能となります。本技術により、疾患の原因となる、細胞内悪性タンパク質の働きを抑制することで、新たな治療法へとつながると期待できます。
本研究成果は、2023年6月14日付アメリカ科学雑誌「PLOS Genetics」に掲載されました。

 

【ポイント】

・オーキシンデグロン(AID)法注1)と小分子抗体(2ページ目参照)を組み合わせることで、小分子抗体が認識するタンパク質の分解誘導に成功。
・細胞質や核、そして、細胞膜といった様々な場所で働くタンパク質を、それらの機能を抑制するレベルまで減少させることが出来た。
・今後は、このような機能的な小分子抗体を利用した創薬への応用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)オーキシンデグロン(AID)法:
植物におけるオーキシン依存的なタンパク質分解系を植物以外の生物種に導入し、
オーキシンを用いて標的とするタンパク質を分解する方法。

 

注2)オーキシン:
最初に見つかった植物ホルモンで、植物の生長や発達など様々な機能をもつ。

 

注3)Nanobody:
ラマやアルパカなどの抗体から構築する小分子抗体の一つ。

 

【論文情報】

雑誌名:PLOS Genetics(米国時間6月14日)
論文タイトル:Development of AlissAID system targeting GFP or mCherry fusion protein
著者:小川佳孝1 西村浩平1 小原圭介1 嘉村巧1 
   1名古屋大学大学院理学研究科 理学専攻
DOI: 10.1371/journal.pgen.1010731
URL: https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1010731

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 西村 浩平 講師
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/laboratory/mcb.html