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生物学

2023.06.01

深海底に広がる発光ナマコの多様性の解明 ~新たな深海棲発光ナマコの発見とその進化的起源の解明~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学高等研究院・大学院理学研究科の別所-上原 学 特任助教は、モントレー湾水族館研究所(アメリカ)およびルーヴェン・カトリック大学(ベルギー王国)との共同研究で、深海に生息するナマコ類注3)の多くが発光能力を持つこと、そして高い多様性をもち豊富に存在することを新たに発見しました。
研究チームは、高感度カメラを搭載した深海探査機を用いることにより、新たに発光するナマコを13種発見しました。さらに、進化学的解析を行い、発光するナマコ類が200種以上いる可能性を示唆しました。
ナマコ類は、他の比較的小型の深海生物と密接な関係にあることが、これまでの研究で示唆されています。今回の研究において、多くのナマコが光る可能性が示唆されたことを加味すると、その関係性に生物発光が関与する可能性が考えられます。さらに本研究成果は、地球環境および生態系の保全にとっても重要な知見になります。深海底における生物発光の重要性や役割を理解し、生物多様性の保全と持続可能な開発注4)を両立できる方策を見出すことが、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に必要です。
本研究成果は、2023年6月中旬出版予定の Academic Press - Elsevier 出版学術専門書籍「The World of Sea Cucumber」に掲載されます。

 

【ポイント】

・ 未解明だった深海のナマコの発光能力について、高感度カメラを搭載した深海探査機注1)を使用することで、深海で実際にナマコが光る様子を撮影することに成功した。
・ 新たに13種の深海棲発光ナマコを発見し、これまで知られていなかった多様性が明らかになった。
・ 発光能力は、ナマコの仲間で6回も独立に進化しており、とくに板足類のナマコの共通祖先はおよそ2億年も昔から深海で光っていたことが明らかになった。さらに、200種以上いる板足類は全て発光する可能性が示唆された。
・ ナマコ以外も含めた全ての生物では、合計で発光能力が100回以上も独立に進化したことになり、生物全体の発光能力の進化・多様性についての知見を更新した。
・ 深海の生態系を理解する上で、生物発光注2)による生物間コミュニケーションの研究の重要性が明らかになった。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)深海探査機:
深海を調査するために使用される機械。通常は高感度カメラや様々なセンサー、ロボットアームなどを備えている。本研究では、無人の遠隔探査機を使用している。

 

注2)生物発光(発光生物):
生物が自ら光を放つ現象。生物発光は、捕食者への警告や餌の誘引、環境への適応などに用いられることが知られている。生物発光能力をもつ生物を発光生物と呼ぶ。目を持たないナマコ自身は、発光を知覚していないのかもしれないが、光ることで他の生物種とコミュニケーションをとっているのかもしれない。その役割については分かっていない。

 

注3)ナマコ類:
ナマコ類は、無脊椎動物のうちウニやヒトデと同じ棘皮(きょくひ)動物門に属するグループ。
世界で1700種近くが知られている。ナマコは海底の底生生物で、泥などに含まれる有機物を利用することが知られている。食用に用いられるマナマコのほかに、中国などでは漢方として利用されている。しかし、これらの浅い海に生息するナマコ類には発光種はいない。深海棲のナマコでは、ナマコなのに泳ぐユメナマコが有名だが、これも発光する。

 

注4)持続可能な開発:
環境や生態系に悪影響を及ぼさないように、資源や技術を効率的かつ持続可能な方法で利用すること。海底資源掘削は、海底に埋まった石油・ガス、金属鉱物などの資源を探査・回収する技術。エネルギー資源の需要が高まる中、海底資源掘削は新たな資源供給の可能性を提供している。しかし、掘削作業は環境への悪影響が懸念されており、生態系への影響や汚染、海底生物の生息環境の変化などが問題となっている。持続可能な開発を目指すためには、海底資源掘削の技術改善や環境保全策の導入が必要。

 

【論文情報】

書籍: The World of Sea Cucumbers
論文タイトル:Glowing sea cucumbers: Bioluminescence in the Holothuroidea
著者: ○Manabu Bessho-Uehara, Jèrôme Mallefet, Steven H.D. Haddock   (下線は本学関係教員)
DOI: https://doi.org/10.1016/B978-0-323-95377-1.00003-5 
ISBN: 9780323953771

 

【研究代表者】

高等研究院/大学院理学研究科 別所-上原 学 特任助教
http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/new/member.html

 

【関連情報】

インタビュー記事「「昔はいたんだけどね」っていいたくないから…。今伝えたい海の「光」とは?」(名古屋大学研究フロントライン)