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数物系科学

2023.06.15

宇宙最大規模の衝撃波で消費されるエネルギーを測定 ~最も近くの衝突が始まったばかりの銀河団~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学素粒子宇宙起源研究所の中澤 知洋 准教授、同大学院理学研究科の大宮 悠希 博士後期課程学生らの研究グループは、国立天文台、東京理科大学、広島大学、埼玉大学、JAXA宇宙科学研究所、都立大学、オランダ宇宙科学研究所、東邦大学との共同研究で、欧州のX線天文衛星「XMM-Newton」のデータを解析し、近傍に存在する衝突銀河団CIZA J1358.9-4750でまさに生まれたての衝撃波の「縦・横・奥行き」と衝突速度の推定に成功し、その巨大な衝撃波の中で 2.3×1038 W ものエネルギーが解放されていることを確認しました。
銀河団は宇宙最大の天体種族で、明るいX線を放射する大量の高温ガスを纏っています。銀河団同士の衝突は宇宙最大規模の天体現象で、300万光年四方という巨大な衝撃波が発生します。天文学では一般に天体の「奥行き」を測定することは難しいのですが、本研究では、この銀河団が「衝突したて」であることを生かして解析を工夫して、「奥行き」を求めました。高温ガスの温度分布から衝撃波の衝突速度を求め、「縦・横・奥行き」と掛け合わせることで、そこで運動エネルギーから熱エネルギーや粒子加速、磁場増幅に変換されるエネルギー量を求めることに成功しました。
本研究成果は、2023年2月号の日本天文学会欧文研究報告(PASJ)に掲載されました。関連論文の「Diffuse radio source candidate in CIZA J1358.9-4750」 (2023年2月PASJ)は、電波観測により粒子加速と磁場増幅で生じる「シンクロトロン電波注1)」を発見し、これが3.5×1033 W の電場放射をしていることを確認しました。これにより、その変換効率が約10-5 と求まりました。まだ一つの例ですが、これをきっかけに変換効率の分布を知ることで、宇宙最大の衝撃波の中で何が起きているのかを明らかにしていきます。

 

【ポイント】

・宇宙最大の天体である銀河団同士の衝突の3次元描像を高精度でモデル化した。
・衝突によって生まれたばかりの巨大衝撃波で解放されるエネルギーを推定した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)シンクロトロン電波:
光に近い速度の電子が磁場から力を受けて螺旋状に運動することで放射する電波。

 

【論文情報】

雑誌名:日本天文学会 欧文研究報告(PASJ)
論文タイトル:XMM-Newton view of the shock heating in an early merging cluster, CIZA J1358.9?4750
著者:Yuki OMIYA(1), Kazuhiro NAKAZAWA(1,2), Kyoko MATSUSHITA(3), Shogo B. KOBAYASHI(3), Nobuhiro OKABE(4), Kosuke SATO(5), Takayuki TAMURA(6), Yutaka FUJITA (7), Liyi GU(8), Tetsu KITAYAMA (9), Takuya AKAHORI(10), Kohei KURAHARA(10) and Tomohiro YAMAGUCHI(1)
(1) 名古屋大学大学院理学研究科
(2) 名古屋大学 素粒子宇宙起源研究所
(3) 東京理科大学 理学部
(4) 広島大学大学院先進理工系科学研究科
(5) 埼玉大学大学院理工学研究科
(6) JAXA 宇宙科学研究所
(7) 東京都立大学大学院理学研究科
(8) SRON Netherlands Institute for Space Research
(9) 東邦大学大学院理学研究科
(10) 国立天文台 水沢VLBI観測所
DOI: 10.1093/pasj/psac087                    
URL: https://academic.oup.com/pasj/article/75/1/37/6862036

 

【研究代表者】

素粒子宇宙起源研究所 中澤 知洋 准教授
http://www.u.phys.nagoya-u.ac.jp/uxgj.html