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数物系科学

2023.06.29

磁気相転移で制御が可能な垂直磁性の発見 ~高密度スピンデバイスの省電力制御の可能性~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の大村 浩貴 博士前期課程学生(研究当時)、小森 祥央 助教、井村 敬一郎 講師、谷山 智康 教授らの研究グループは、名古屋大学超高圧電子顕微鏡施設の荒井 重勇 特任准教授、依田 香保留 技術支援員と共同で、FeRhと強磁性体の界面において磁気相転移によって制御可能な巨大な垂直磁気異方性が発現することを発見しました。
不揮発磁気メモリ注6)をはじめとするスピンデバイスの高密度化には、漏れ磁場の少ない面直方向の磁化を実現するための、強い垂直磁気異方性を有する強磁性薄膜が求められています。近年、強磁性体/反強磁性体注7)界面における磁気交換結合注8)に基づく垂直磁化の発現が報告され、報告例は少ないものの、従来の複雑な多層構造や強いスピン軌道相互作用注9)を必要としない新たな構造として着目されています。
本研究では、Fe(強磁性)/FeRh(反強磁性)界面において、磁気交換結合に基づく強い垂直磁気異方性の発現を見出しました。また、FeRhの室温付近での反強磁性-強磁性相転移によって、この垂直磁気異方性を制御できることを実証しました。
FeRhの磁気相転移は強誘電体注10)と組み合わせることで、電界での制御が可能となるため、スピンデバイスの高密度化に必要な垂直磁化の省電力制御につながる新現象として期待されます。
本研究成果は、2023年6月29日午前1時(日本時間)付国際学術雑誌「Physical Review Applied」に掲載されました。

 

【ポイント】

・磁気相転移注1)物質の鉄ロジウム(FeRh)注2)と強磁性体注3)の界面で発現する強い垂直磁気異方性注4)の発見
・磁気相転移による垂直磁気異方性の制御を実証
・不揮発メモリを含むスピンデバイスの高密度化注5)に必要な垂直磁化の省電力制御につながる新現象

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 磁気相転移:
物質中の磁気秩序状態が外的条件によって異なる状態に移り変わること。

 

注2) FeRh合金:
鉄とロジウムからなるB2(塩化セシウム)型規則構造の合金。反強磁性を示すが360K以上に昇温することで強磁性状態への磁気相転移が起こる。温度以外にも、磁場や圧力で磁気相転移を誘起することが可能である。

 

注3) 強磁性体:
磁場を印加しなくても自発的に磁化されている物質。磁場の印加によってその方向に強く磁化される。

 

注4) 垂直磁気異方性:
磁化が薄膜面と垂直の方向に向きやすい性質。垂直磁気異方性が大きいほど垂直方向に強く磁化される。

 

注5) スピンデバイスの高密度化:
磁化の向きで情報の処理や保存を行うスピンデバイスにおいて、上向きと下向きの垂直磁化を用いて横方向への漏れ磁場を減らすことなどによって、デバイスの密度(集積度)を高めること

 

注6) 不揮発磁気メモリ:
磁性体の磁化を用いて電力の供給無しにデータを保持するメモリ。

 

注7) 反強磁性体:
隣り合う磁性原子の磁気モーメントが互いに反対方向を向いて整列している物質。単体では磁化を持たないが、強磁性体との接合では強磁性体の磁気的な性質を大きく変化させる。

 

注8) 磁気交換結合:
2つの電子の軌道が重なり合うときに電子のスピンに関係して生じる磁気的な結合。

 

注9) スピン軌道相互作用:
電子が持つスピンと軌道の角運動量の間の相互作用。例えば、強磁性体とプラチナのような重金属の界面では、強いスピン軌道相互作用による実効的な磁場によって、強い垂直磁気異方性が発現する。

 

注10) 強誘電体:
電場がない状態でも自発分極を持ち、電場を印加することで分極の方向を反転させることができる物質。

 

【論文情報】

雑誌名:Physical Review Applied
論文タイトル:Controllable perpendicular magnetic anisotropy in Fe/Fe100-xRhx heterostructures probed by ferromagnetic resonance
著者:H. Omura, S. Komori, S. Arai, K. Yoda, K. Imura, T. Taniyama
(全て名古屋大学関係者)
DOI: 10.1103/PhysRevApplied.19.064077
URL: https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.19.064077

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 谷山 智康 教授
http://www.j-group.phys.nagoya-u.ac.jp/