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医歯薬学

2023.07.27

血液検査結果から算出したフレイル度と、機能評価に基づくフレイル度 ~どちらも加齢に伴う虚弱さの評価には簡便で有用、併用はさらに有用~

フレイルは「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義されています。フレイルな高齢者は転倒などの健康障害を認めやすく、死亡割合も高くなります。しかし、早期に発見し適切に介入すればフレイルの一部は可逆的で予防可能であることもわかってきたため、近年注目されています。
広く使われているフレイルの評価方法として、日常生活動作などの機能評価に基づく臨床フレイルスケール(CFS: Clinical Frailty Scale)があります。また、比較的新しい方法として、血液検査結果などを用いる FI ラボも知られるようになってきました。これら 2 つのフレイル指数はそれぞれフレイルの異なる側面を評価している可能性があります。この点について、名古屋大学医学部附属病院老年内科の中嶋宏貴講師、梅垣宏行教授らの研究グループは、入院患者を登録する研究(J-HAC 研究)*3 のデータを用いて検討しました。
その結果、日常生活動作や認知機能は CFS と強い相関がある一方で、FI ラボとは弱い相関しか認められませんでした。さらに、2 つのフレイル指数同士の相関は弱く、それぞれが独立して死亡や入院期間などの臨床的な転帰と関連していました。これらの結果から、CFS と FI ラボはそれぞれフレイルの異なる側面を評価していることが示唆されました。
また、臨床的な転帰を予測する際には、CFS と FI ラボの両方を同時に用いることが有効であることもわかりました。これらのフレイル指数を併用する場合、重みづけなど複雑な計算で得た合計値を用いても、単純な平均値を用いても、性能に差はありませんでした。
CFS と FI ラボはどちらも簡単に評価できる方法であり、特に FI ラボは自動化にも向いています。これらのフレイル指数を活用することで、リスクに応じた介入が容易になる可能性があります。この研究結果は、2023 年 6 月 28 日付の「Aging Clinical and Experimental Research」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・ 加齢に伴う虚弱さをあらわす「フレイル」の程度を評価する方法は複数あり、FIラボ*1 のような血液検査結果から算出するフレイル度や、臨床フレイルスケール(CFS:Clinical Frailty Scale)のような日常生活動作*2 などの機能の評価に基づくフレイル度が存在する。
・ これらの 2 つの方法はいずれも簡便で有用だが、それぞれがフレイルの異なる側面を評価しているため、臨床的転帰を予測する際には、2 つを併用することでさらに有用性が高まる。
・ 特に FI ラボは自動化との相性も良く、CFS と組み合わせて、入院時や健康診断時にリスクを評価する手段として利用が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1 FI ラボ: Frailty Index-laboratory。FI-lab と略されます。
*2 日常生活動作: 日常生活を送るために必要な動作のことです。食事、排泄、着替え、服薬管理、買い物、電話などを含みます。
*3 J-HAC 研究: Japan Hospital Associated Complications 研究、日本入院関連合併症研究。名古屋大学、国立長寿医療研究センター、大阪大学、東京大学の 4 施設の共同研究です。入院する高齢者患者さんを登録し、入院に関連した合併症(せん妄や転倒など)について調べています。今回の研究は名古屋大学で登録された患者さんのデータだけを用いて行われました。

 

【論文情報】

掲雑誌名:Aging Clinical and Experimental Research
論文タイトル:Combined use of the Clinical Frailty Scale and laboratory tests in acutely hospitalized older patients
著者:
Hirotaka Nakashima, Masaaki Nagae, Hitoshi Komiya, Chisato Fujisawa, Kazuhisa Watanabe, Yosuke Yamada, Tomihiko Tajima, Shuzo Miyahara, Tomomichi Sakai, Hiroyuki Umegaki
所属:
名古屋大学医学部附属病院 老年内科

 

DOI:10.1007/s40520-023-02477-w

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Agi_230727en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 中嶋 宏貴 講師
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/geriatrics/index.html