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環境学

2023.07.31

ロックダウンによる人為起源エアロゾル減少が気候に与える影響を全球規模で解明 ―衛星観測に基づく原料物質の排出量変化から現実的な評価を可能に―

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院環境学研究科の須藤健悟教授は、国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 大和 裕幸、以下「JAMSTEC」という。) 地球環境部門 地球表層システム研究センターの関谷高志研究員、アメリカ航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所(JPL)の宮崎和幸研究員らとともに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック期の世界的なロックダウンに伴う排出量の減少により、大気中で作られる人為的なエアロゾル粒子量がどの程度変化し、地球の熱エネルギーバランスに影響を与えたかを明らかにしました。
これまでの観測データに基づく研究手法では、人為・自然起源を含むエアロゾル粒子全体の量の変化を評価しており、ロックダウンに伴う人間活動の変容の影響のみを取り出して詳細に評価することは困難でした。本研究チームでは、JAMSTEC及びNASAジェット推進研究所(JPL)で開発されてきた多種類の大気物質を同時に取り扱うことが可能なデータ同化(※3)解析システムとヨーロッパ宇宙機関(ESA)による衛星観測データから、人為的なエアロゾルの原料物質の排出量の変化を算出した上で、人為的なエアロゾル量の変化を推定することで、この課題を解決しました。さらに、人為的なエアロゾル量の減少が地球全体の熱エネルギーバランスに与える影響を評価したところ、エアロゾルの日傘効果を弱め、地球に入る正味の熱エネルギーを0.14 W/m2増加させることがわかりました。
本研究は、衛星観測から逆算した現実的な排出量変化に基づき、地球規模の人為的なエアロゾル量と気候への波及効果を評価した初めての例となります。エアロゾルの昇温効果は、この期間のCO2排出量のわずかな低下がもたらしうる冷却効果(-0.025 W/m2, Forster et al., 2020)を打ち消すほど大きいことを明らかにしました。気候緩和策によるCO2排出削減と同時に進行すると考えられるエアロゾル削減が、打ち消し合う関係にあることは以前から知られていましたが、本研究はその量的な関係を明らかにした研究として重要です。これらの知見は今後の気候変動対策についての貴重な情報となるほか、予測の改善にもつながることが期待できます。
なお、本研究は環境省環境研究総合推進費(2-2201)および日本学術振興会科研費(JP22K12353)の助成を受けたものです。
本成果は、「Science Advances」に7月29日付け(日本時間)で掲載されました。

 

【ポイント】

◆ COVID-19パンデミック初期に行われた世界的なロックダウンの期間中に、大気中で生成された人為的なエアロゾル(※1)量が、主な排出地域(東アジア・北米・欧州)で平均8?21%減少したことを、衛星観測から精確に算出した原料物質の排出量の変化に基づき明らかにした。
◆ この人為的なエアロゾル量の減少によって日傘効果(※2)が薄れるなどして、地球に入る正味の熱エネルギーが平時と比べ0.14 W/m2増加したことがわかった。
◆ 本研究は、人為起源エアロゾル減少による気候影響を初めて地球規模で評価したものであり、同期間のCO2排出量の減少による冷却効果(-0.025 W/m2)がエアロゾル量の減少による昇温効果によって打ち消されていたことを現実に即した形で明らかにした。
◆ この結果は、CO2排出量の削減と同時に進行するエアロゾル量の削減が気候に与える影響の量的な関係を示しており、気候変動緩和策の最適化や気候変動予測に対して重要な示唆を与える。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 エアロゾル:大気中を浮遊する固体または液体状の微小粒子。発電・産業・運輸などの社会経済活動により排出される二酸化硫黄・窒素酸化物などから大気中で生成される硫酸塩・硝酸塩などの「人為的なエアロゾル」のほかに、風による巻き上げで大気中へ放出される黄砂などの「自然起源のエアロゾル」があり、その発生源は多様である。
※2 日傘効果:硫酸塩・硝酸塩などのエアロゾルが、太陽光を散乱することにより地上に到達する正味の熱エネルギーを減少させ、地球を冷却する効果。
※3 データ同化: 観測データと数値シミュレーションから、それぞれの誤差と物理化学法則を考慮し、最適な値を推定する統計的手法。数値シミュレーションの大気物質の濃度と排出量の関係を用いて、直接観測されていない排出量の最適化を行うことができる。

 

【論文情報】

タイトル:The worldwide COVID-19 lockdown impacts on global secondary inorganic aerosols and radiative budget
著者:関谷 高志1、宮崎 和幸2,1、 Henk Eskes3、 Kevin Bowman2,4、 須藤 健悟5,1、金谷 有剛1、滝川 雅之1
1. 国立研究開発法人 海洋研究開発機構 2: NASAジェット推進研究所(米国) 3: オランダ王立気象研究所 4: University of California(米国) 5: 東海国立大学機構 名古屋大学
DOI: 10.1126/sciadv.adh2688
URL: https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adh2688

 

【研究代表者】

大学院環境学研究科 須藤 健悟 教授
http://chaser.has.env.nagoya-u.ac.jp/aecm/