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生物学

2023.07.31

多価陽イオンによってイオン電流が調節される仕組みを解明 ~思考や記憶等の元になる神経伝達の調節機構についての知見~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学細胞生理学研究センター・大学院創薬科学研究科・糖鎖生命コア研究所の大嶋 篤典 教授、織田 祥徳 博士後期課程学生らの研究グループは、和歌山県立医科大学薬学部の入江 克雅 准教授(名古屋大学細胞生理学研究センター 客員准教授)、金沢大学ナノ生命科学研究所の炭竈 享司 特任助教(JSTさきがけ研究員)、東京医科歯科大学との共同研究で、神経情報伝達や記憶形成などで重要な役割を担う二価陽イオンによるイオンチャネルの電流調節の仕組みを、遺伝子変異による機能改変・結晶構造解析・分子動力学シミュレーション注1)を用いることで明らかにしました
神経活動は複雑な調節を受けており、その調節の微妙な変化により様々な障害が生じます。イオンチャネルは、神経活動の元となるイオン電流を発生させる分子であり、マグネシウムイオンによるイオンチャネルの活動の調節を標的とした化合物は、抗てんかん薬や抗アルツハイマー病薬となります。しかしながら、このイオン電流の調節の詳細は不明でした。本研究では、イオンチャネルのイオンの通り道の親水性を高めると、二価の陽イオンが詰まりやすくなり、その結果イオン電流が生じにくくなるということを明らかにしました
本研究成果は、神経伝達の電気信号の調節機構についての知見を与えるものです。また、イオンチャネルへの機能創出や多価イオンの分子動力学シミュレーションでの再現などについても新たな知見を提供し、これらの結果をもとにした、新たな薬剤の開発の基礎となることも期待されます
この研究成果は、2023年7月15日付にイギリス科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

 

【ポイント】

・神経活動の調節に重要な電流調節の仕組みに関する研究
・親水性の増加によるカルシウムイオンによる電流阻害が起きることの発見
・多価イオンの挙動をシミュレーションで正確に再現
 
 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)分子動力学シミュレーション:
分子の動的な構造変化を計算機内で再現し追跡する手法。分子力場を用いて、目的分子を含む系内のすべての原子に働く力を求め、これを用いて原子の軌跡を決定する。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:The structural basis of divalent cation block in a tetrameric prokaryotic sodium channel
著者:Katsumasa Irie1,2, Yoshinori Oda3, Takashi Sumikama4,5, Atsunori Oshima2,3,6,7, and Yoshinori Fujiyoshi8,9.
所属:
1 和歌山県立医科大学薬学部
2 名古屋大学細胞生理学研究センター
3 名古屋大学大学院創薬科学研究科
4 金沢大学ナノ生命科学研究所
5 科学技術振興機構さきがけ研究員
6 東海国立大学機構糖鎖生命コア研究所
7 東海国立大学機構One Medicine 創薬シーズ開発・育成研究教育拠点
8 東京医科歯科大学高等研究院卓越研究部門
9 株式会社CeSPIA
DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-023-39987-0
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-023-39987-0

 

【研究代表者】

細胞生理学研究センター 大嶋 篤典 教授
http://www.cespi.nagoya-u.ac.jp/