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農学

2023.08.28

一斉結実したササの種子を、野ネズミが捕食と貯食に有効利用 ~野ネズミによるササの種子利用様式を初実証、散布行動も発見~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の鈴木 華実 博士後期課程学生、梶村 恒 教授の研究グループは、森林に生息する野ネズミが、ササの種子を積極的に餌として利用し、貯食の対象にもしていることを実証しました。
 ササ類は、数十年から百数十年に一度開花・結実し、その後枯死する「一回繁殖性注2)」の植物です。同時に広範囲で発生する場合が多く、「一斉開花」「一斉結実」します。この現象によって、林内には大量の種子が突如として供給され、種子を主な餌とする動物に多大な影響をおよぼすと考えられていましたが、その真相は不明でした。
また本実験によって、その種子の利用様式は、野ネズミの種類や、森林構成樹種、林床環境、季節によって明瞭に異なることも示されました。
これらの成果は、ササ類の一斉結実イベントが、森林内で同所的に生息・生育する動植物に与えるインパクトの大きさを評価する手掛かりとなることが期待されます。また、一斉結実自体が数十年から百年を超える長い周期で発生することから、大変希少価値の高いものと言えます。
本研究の成果は、2023年8月23日付スイスの科学雑誌「Frontiers in Ecology and Evolution」に掲載されました。

 

【ポイント】

・ササの一斉結実は、数十年~百数十年の周期で起こり、この時に大量の種子が林内に供給される。その種子を餌とする野ネズミの個体数は増加するが、野ネズミがどの程度、どのように利用しているのかは不明であった。

・本研究では、異なる森林環境下でササの種子を供試し、訪れる野ネズミの様子を自動撮影カメラで録画した。その画像データから利用頻度を定量化し、採餌行動を分析した。

・野ネズミは、種子をその場で捕食するだけでなく、持ち去り、地面に埋めていた。ササのように小さな種子を対象とした野ネズミの散布・貯食注1)行動は、定説を覆すものである

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)貯食:
 動物が餌資源をすぐに摂食せず、地面や巣穴などに貯めておく行動。後で、とくに餌資源が不足する時に、貯めておいたものを摂食すると考えられている。堅果(ドングリ)の場合、一部の齧歯類や鳥類などで見られる。

 

注2)一回繁殖性:
 一生に一度だけ有性繁殖 (植物の場合は開花・結実) を行い、その後は死亡する繁殖様式。

 

【論文情報】

雑誌名:Frontiers in Ecology and Evolution

論文タイトル:Utilization of Sasa borealis seeds by Japanese field mouse: Discovery of small-seed caching

著者:Hanami Suzuki (名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程学生/2021年度『名古屋大学融合フロンティアフェロー』), Hisashi Kajimura (名古屋大学大学院生命農学研究科教授)

DOI:10.3389/fevo.2023.1124393  

URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fevo.2023.1124393/full

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 梶村 恒 教授

https://forest-protection-nu.jimdofree.com/

 

【関連情報】

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