工学
2023.08.22
生細胞の表面構造をナノスケールで直接可視化 ~エクソソームなど細胞間コミュニケーションの理解に貢献~
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科/金沢大学ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の高橋康史教授,WPI-NanoLSIの華山力成教授,福間剛士教授,および海外主任研究者(PI)で英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのユリ・コルチェフ教授らの共同研究グループは,生細胞表面の構造をナノスケールのレベルで可視化する技術を確立し,細胞外物質の取り込み過程や,細胞間コミュニケーションに関与するエクソソーム(※1)の可視化に成功しました。
ウィルスの細胞内への侵入や,細胞内外との物質のやり取りを観察するためには,現状の顕微鏡技術の空間分解能では不十分です。そのため,超解像度顕微鏡(※2)など高分解能化が進められていますが,依然として空間分解能に課題を抱えています。細胞を生きたまま直接可視化するライブセルイメージングは,細胞のダイナミックな動きを理解することのできる方法です。走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)(※3)は,細胞のナノ構造を侵襲することなく生きた状態でライブイメージングを行うことができます。しかしながら,SICMの解像度向上に不可欠なガラスナノピペット(※4)の微細化が困難なため,これまではその高度な技術を持つ限られた研究グループのみが超解像度のイメージングを達成してきました。本研究では,このような細胞表面のナノスケールの構造変化を再現性良く観察するため,キーとなる微細なガラスナノピペットの作製法を確立しました。さらに,高解像度SICMにより,細胞外の物質を取り込む過程の1つであるエンドサイトーシスを連続的に可視化することや,細胞外へ放出されるエクソソームの動きを捉えることに成功しました。
本研究成果は,2023年8月20日付(米国東部時間)でアメリカ化学雑誌「Analytical Chemistry」のオンライン版に掲載されました。
● 生きた細胞のダイナミックな構造変化をナノスケールで可視化。
● イメージングの再現性を大幅に向上させるプローブ作製方法を確立。
● 細胞外物質の取り込み過程を可視化。
● 細胞が放出したエクソソームを直接可視化。
● 細胞間コミュニケーションの理解への貢献が期待。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
※1 エクソソーム
細胞から分泌される直径50-150 ナノメートル(nm:10億分の1メートル)の顆粒状の物質。その表面は細胞膜由来の脂質,タンパク質を含み,内部には核酸(マイクロRNA,メッセンジャーRNA,DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含む。
※2 超解像度顕微鏡
蛍光分子の特徴を巧みに利用することで,回折限界を超えた高い空間分解能を達成する手法。時空間分解能はトレードオフであり,さまざまな手法が開発されている。
※3 走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)
ガラスナノピペットをプローブに用いて,溶液中でイオン電流をフィードバックシグナル
として利用し,ガラスナノピペットと試料との距離を制御しながら,試料表面の形状を計
測する手法。
※4 ガラスナノピペット
ガラスキャピラリー(毛細管)を,専用の伸長装置を使って,加熱しながら引っ張ることで作製した尖った先端部にナノスケールの開口を有する中空のガラスピペット。
雑誌名:Analytical Chemistry
論文名:Nanopipette Fabrication Guidelines for SICM Nanoscale Imaging
(走査型イオンコンダクタンス顕微鏡を用いたナノスケールのイメージングのためのガラスナノピペットの作製方法のガイドライン)
著者名:Yasufumi Takahashi1,2*, Yuya Sasaki3, Takeshi Yoshida1, Honda Kota2, Yuanshu Zhou1, Takafumi Miyamoto3, Tomoko Motoo1, Hiroki Higashi3, Andrew Shevchuk4, Yuri Korchev1,4, Hiroki Ida2, Rikinari Hanayama1, Takeshi Fukuma1
(髙橋康史,佐々木祐哉,吉田孟史,本田航大,周縁殊,宮本貴史,元尾朋子,東宏樹,アンドリュー・シェブチェック,ユリ・コルチェフ,井田大貴,華山力成,福間剛士)
1. 金沢大学ナノ生命科学研究所
2. 名古屋大学大学院工学研究科
3. 金沢大学大学院自然科学研究科
4. 英国 インペリアル・カレッジ・ロンドン
掲載日時:2023年8月20日(米国東部時間)にオンライン版に掲載
DOI:10.1021/acs.analchem.3c01010
URL:https://doi.org/10.1021/acs.analchem.3c01010