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医歯薬学

2023.09.14

心臓内に FDG 異常集積を認める心臓サルコイドーシスに対する前向き介入研究:PRESTIGE Study

原因不明の肉芽腫性疾患であるサルコイドーシスのうち、心臓サルコイドーシス(CS) の国内における推定有病率は人口 10 万人あたり 7~9 人で、罹患率は年間人口 10 万人あたり 1 人前後です。これまでの CS に関連する報告は後ろ向きでの解析がほとんどであるため、治療介入方法や治療効果判定などに関してのエビデンスが不足していました。名古屋大学大学院医学系研究科循環器内科学の森本竜太 助教、室原豊明 教授、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院循環器内科の海野一雅 医師(研究当時)らの研究グループは、CS 疑いを含めた 500 人以上の紹介患者のうち、活動性のあるサルコイドーシス患者のみをターゲットにすべく、18F-FDG-PET※6 撮像を行った上で心臓内に FDG 異常集積を認める患者のみ(n=59)を登録し、副腎皮質ステロイド (PSL)での治療介入を行い、また PSL 治療抵抗群に対しては代替薬としてのメトトレキサート(MTX)の有効性に関する検討を行いました。活動性炎症部位(CMA)範囲は解析ソフト(GI-PET)を用いて算出し、CMA が70%以上低下した患者群をレスポンス群:R-群、70%未満を非レスポンス群: P-R群と定義したところ、6 ヶ月間の標準的な PSL 治療介入により 80%が R-群、16%が P-R 群、4%は再発群に分類されました。治療介入後 3.3 年の観察期間中に 7 人に心イベント (突然死: n=1、持続性心室頻拍:n=3、心不全入院: n=3)を認め、R-群と比較して P-R 群に不整脈以外の心イベントを有意に多く認めましたが (log-rank, p=0.048)、心室頻拍を認めた患者のすべてが R-群であり、不整脈と FDG集積とは関連がないことが示唆されました。代替薬としての MTX の有用性を評価するために P-R 群:(n=9)と再発群:(n=2)の計 11 人を MTX 群(n=5)または PSL再投与群(n=6)にランダムに割り付けを行い、6 ヵ月間の追加での治療介入を行ったところ、両群ともに CMA 値は低下傾向であったものの、2 群間において CMA 値、血液検査、心エコー指標に関して有意な差を認めず、以上より本研究においては P-R群、再発群に対する MTX の効果は限定的でした。本研究成果は、2023 年 7 月12 日付で米国科学誌「JACC: Cardiovascular Imaging」にオンライン掲載され
ました。

 

【ポイント】

・本研究は、免疫抑制療法に対して抵抗性のある心臓サルコイドーシス※1 への初めての前向き介入研究※2 である。
・活動性のある心臓サルコイドーシスに対し 6 か月間のプレドニゾロン※3 による標準的な治療介入を行うと、80%の患者において FDG(フルオロデオキシグルコース)異常集積に関わる CMA (cardiac metabolic activity)※4 の 70%以上の低下を認め、この患者群はその後、心イベント※5 が有意に少ない。
・プレドニゾロンによる標準治療介入後も心臓内に FDG 異常集積が残存する患者群において、代替治療薬としてのメトトレキサート介入はプレドニゾロンの再投与療法と比較して、優位性を認めない。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 サルコイドーシス:
原因不明な肉芽腫形成を伴う多臓器関連疾患であり、日本では厚生労働省が認定する特定疾患の 1 つとされている。


※2 前向き介入研究 :
前向き研究は将来生じる現象を調査する研究を指し、中でも前向き介入研究では患者を登録後に、まだ確立をしていない検査や治療法を検討し、新たな医療の道を開拓する研究を指します。一方、過去に生じた現象を調査する研究を後ろ向き研究と呼ぶ。


※3 プレドニゾロン :
抗炎症作用、免疫抑制作用などを有し、心臓サルコイドーシスに対しては第一選択薬として広く使用がされている。


※4 CMA (cardiac metabolic activity) :
心臓内における FDG 異常集積範囲の総量。今回は肝臓に基準を設け、解析ソフトを用いて閾値以上のすべての断面を積分化し、異常集積範囲を算出した。


※5 心イベント:
心血管研究で使用される有害事象のことであり、本研究では心臓突然死、心室性不整脈、心不全入院を複合心イベントとして定義をしている。


※6 18F-FDG-PET :
18F-FDG は PET 検査用のグルコーストレーサーであり、FDG の集積像は病変部における活発化マクロファージなど、炎症細胞浸潤を反映したものと考えられている。心臓サルコイドーシス診断の主徴候の1つに、18F-FDG-PET での心臓への異常集積という項目が挙げられており、重要な撮像モダリティーの1つと考えられている。

 

【論文情報】

雑誌名:JACC: Cardiovascular Imaging
論文タイトル:
Prospective Analysis of Immunosuppressive Therapy in Cardiac Sarcoidosis With Fluorodeoxyglucose Myocardial Accumulation: PRESTIGE Study
著者名・所属名:
Ryota Morimoto, MD, PhD,1 Kazumasa Unno, MD, PhD¶,2
Naotoshi Fujita, RT,PhD,3 Yasuhiro Sakuragi, RT, 3
Takuya Nishimoto, RT, 3 Masato Yamashita, RT, 3
Tasuku Kuwayama, MD,1 Hiroaki Hiraiwa, MD, PhD,1
Toru Kondo MD, PhD,1,9 Yachiyo Kuwatsuka MD, PhD,4
Takahiro Okumura, MD, PhD,1 Satoru Ohshima, MD, PhD,5
Hiroshi Takahashi, BSc,6 Masahiko Ando, MD, PhD,4
Hideki Ishii, MD, PhD,7 Katsuhiko Kato, MD, PhD,8
Toyoaki Murohara MD, PhD,1
1 Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan;
2 Department of Cardiology, Japanese Red Cross Nagoya Daini Hospital, Nagoya, Japan;
3 Department of Radiological Technology, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan;
4 Department of Advanced Medicine and Clinical Research, Nagoya University Hospital; Nagoya, Japan.
5 Department of Cardiology, Nagoya Kyoritsu Hospital, Nagoya, Japan; 6 Department of Cardiology, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Japan;
7 Department of Cardiovascular Medicine, Gunma University Graduate School of Medicine, Maebashi, Japan;
8 Department of Functional Medical Imaging, Biomedical Imaging Sciences, Division of Advanced Information Health Sciences, Department of Integrated Health Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan;
9 British Heart Foundation Cardiovascular Research Centre, University of Glasgow, Glasgow, UK;

 

DOI: 10.1016/j.jcmg.2023.05.017

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/JAC_230914en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 森本 竜太 助教
https://www.med-nagoya-junnai.jp

 

【関連情報】

研究者インタビュー「心臓サルコイドーシスという病気を知っていますか?」(名大研究フロントライン)