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医歯薬学

2023.09.19

入院高齢者の安全な薬物療法における新たなアプローチ ~特に慎重な投与を要する薬剤について、病棟別の対策が有効である可能性~

高齢者は多くの疾患に対して多数の薬剤を処方されますが、薬剤の副作用が懸念されます。高齢者に対する処方で特に慎重を要する薬剤の一群があり、PIMs(Potentially Inappropriate Medications(*)) と呼ばれています。高齢の入院患者さんにおいて特に PIMs の使用頻度が高いことが課題ですが、現在広く知られている PIMs 対策は手間がかかります。大規模病院においてさえ対策の効果的・継続的な実施は難しい現状がある中、小~中規模病院でも実施可能な PIMs 対策が望まれています。
日本の多くの小~中規模病院は、以下の 4 種類の病棟のいずれかまたは複数を有しています。
1. 整形外科リハビリ病棟
2. 脳神経リハビリ病棟
3. その他の疾患の治療後のリハビリや退院支援のため病棟
4. 急性疾患治療のための病棟。
名古屋大学医学部附属病院老年内科の中嶋宏貴 講師、梅垣宏行 教授らの研究グループは、病棟ごとに PIMs の特徴があれば、それに基づいた効率的な対策を実施できるのではと考えました。そこで、岐阜市にある医療法人和光会山田病院という中規模病院に入院する患者さんのデータを解析し、入院時における PIMs の、病棟ごとの特徴を検討しました。
その結果、4 種類の病棟で PIMs 全体の使用頻度に差は見られませんでしたが、使用頻度の高い PIMs の薬剤種類は病棟ごとに異なっていました。具体的には、整形外科リハビリ病棟では睡眠薬と鎮痛薬の使用が多く、脳神経リハビリ病棟では抗血栓薬、その他の疾患のリハビリ病棟では利尿薬、急性疾患病棟では睡眠薬と利尿薬の使用が多いという結果でした。
本研究の結果は、それぞれの病院の普段の診療に即した方法で入院患者さんをグループ分けし、頻度の高い PIMs を把握することで、従来の方法よりも効率的に対策を実施できるかもしれないことを示唆します。将来の研究では、病棟別の PIMs に対する介入効果を検証する必要があります。また、このアプローチは日本の医療政策にも適用できるかもしれず、多くの高齢者にとってより安全な薬物療法を促進する可能性があります。この研究結果は、2023 年 9 月 15 日付の「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・高齢者に対する処方で特に慎重を要する薬剤の一群は PIMs(ピムス)と呼ばれ、重要性が認識されつつあるが、現在広く知られている PIMs 対策は手間がかかり、継続的・効果的な実施は容易ではない。
・日本の中規模病院に入院する高齢患者さんの、入院時点で使用している PIMs の薬剤種類は、病棟ごとに(つまり入院の目的によって)異なることがわかった。
・それぞれの病院の普段の診療に即した方法で入院高齢者をグループ分けし、頻度の高い PIMs を把握することで、従来の方法よりも効果的に対策を実施できるかもしれない。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(*)PIMs(ピムス/Potentially Inappropriate Medications):直訳すると「潜在的に不適切な薬剤」です。あくまでも潜在的に不適切な薬剤です。一般的に PIMs に該当する薬剤であっても、個々人の患者さんにとっては必要性が高く適切な処方である場合もあります。ご自身の判断で服用を中止することは決してしないようにお願いします。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:
Comparing prevalence and types of potentially inappropriate medications among patient groups in a post-acute and secondary care hospital
著者名・所属名:
中嶋宏貴・名古屋大学医学部附属病院 老年内科
安藤弘道・医療法人和光会山田病院
梅垣宏行・名古屋大学医学部附属病院 老年内科
DOI: 10.1038/s41598-023-41617-0

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_230915en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 中嶋 宏貴 講師

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/geriatrics/index.html