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化学

2023.09.22

新たな遺伝子サイレンシング技術の開発に成功! ~トポロジカルなmRNA捕捉による遺伝子治療に向けた革新的一歩~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の阿部 洋 教授、木村 康明 准教授、阿部 奈保子 特任准教授、Lyu Fangjie (ルー ファンジ) 博士後期課程学生、富田 貴志 博士前期課程学生(研究当時)らの研究グループは、オリゴ核酸の連結反応に基づく新たな遺伝子サイレンシング法を開発しました。
本研究では、遺伝子発現制御技術の革新を目指し、新しい手法として「トポロジー捕捉法」を提案しました。この技術は、新規に開発した分岐型DNAが標的とするmRNAと複合体を形成することで、遺伝子発現を抑制します。
従来のアンチセンス法では、DNAがmRNAに単純に結合するだけでしたが、「トポロジー捕捉法」ではDNA同士が反応してより安定な複合体を形成します。このため、より高い遺伝子サイレンシング効果が期待できます。特に、2分岐DNAによって形成される複合体は、従来の直鎖アンチセンス核酸よりも優れた活性を示しました。
この成果は、遺伝子治療の分野において大きな可能性を秘めています。難治性の疾患や遺伝子異常に対する新たな治療法の開発につながる可能性があり、医学や生命科学の分野において革新的な成果を生み出すことが期待されます。
本研究成果は、2023年9月4日付Royal Society of Chemistry発行の雑誌「Chemical Communications」のウェブ上で先行公開されました。

 

【ポイント】

・ アンチセンス法注1)には、低い効果やターゲット特異性の問題などの制約がある。
・ 本複数の反応性官能基を持ち、枝分かれしたオリゴデオキシヌクレオチド(DNA)を使用した、トポロジカルな(高次複合体形成を介した)mRNA注2)捕捉法を開発した。
・ この手法では、反応性DNAを用いてターゲットmRNAにより安定な複合体を形成し、通常型アンチセンス核酸よりも高い遺伝子サイレンシング注3)効果を示した。
・ 新規の遺伝子サイレンシング法として有望な手法となることが見込まれる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
 

【用語説明】

注1)アンチセンス法:
標的のmRNAに結合するオリゴデオキシヌクレオチド(DNA)を用いて特定の遺伝子の発現を抑制する技術。

 

注2)mRNA(メッセンジャーRNA):
遺伝子から転写された情報をDNAから細胞質へ運ぶRNAの一種。mRNAは細胞内でタンパク質の合成に必要な情報を運ぶ。

 

注3)遺伝子サイレンシング(Gene Silencing):
特定の遺伝子の機能を抑制することを指す技術。遺伝子サイレンシングを行うために、抑制したい遺伝子と相補的な配列を持つDNAを使用することが一般的。

 

【論文情報】

雑誌名: Chemical Communications
論文タイトル:Topological capture of mRNA for silencing gene expression
著者: Fangjie Lyu (大学院生) Takashi Tomita (大学院生、当時), Naoko Abe (特任准教授), Haruka Hiraoka (特任助教), Fumitaka Hashiya (助教), Yuko Nakashima (研究員), Shiryu Kajihara (大学院生) Fumiaki Tomoike(助教、当時), Zhaoma Shu (大学院生、当時), Kazumitsu Onizuka, Yasuaki Kimura (准教授), Hiroshi Abe (教授)     
DOI: 10.1039/d2cc06189a   
URL: https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2023/CC/D2CC06189A

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 阿部 洋 教授
http://biochemistry.chem.nagoya-u.ac.jp/