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医歯薬学

2023.10.20

手術で治せる認知症の術後状態を予測する AI モデルを作成 ―慢性硬膜下血腫の退院時身体機能を術前の臨床的情報から高精度で予測―

名古屋大学大学院医学系研究科脳神経外科学の齋藤 竜太(さいとう りゅうた)教授、永島 吉孝(ながしま よしたか)病院助教、布施 佑太郎(ふせ ゆうたろう)大学院生、神経遺伝情報学の大野 欽司(おおの きんじ)教授、西脇 寛(にしわき ひろし)助教らの研究グループは、手術前のデータを用いて、慢性硬膜下血腫の患者さんにおける手術後の身体機能の状態を高精度に予測する AI モデルを開発しました。
高齢化が進む現在、頭部外傷の疾患である「慢性硬膜下血腫」※1 の患者さんの数が増加しています。慢性硬膜下血腫は認知機能低下を引き起こしますが、手術後の身体機能の回復や生活の質は患者さんやその家族にとって大切です。この病気は主に手術によって治療される病気ですが、これまでの研究や治療法では、術後の身体機能を正確に予測することは難しいとされてきました。この研究では、最先端の AI 技術を活用して、手術前に利用可能な血液検査・画像検査や臨床所見などの情報を網羅的に解析しました。それにより、慢性硬膜下血腫の患者さんの手術後の身体機能を、91.9%という驚異的な精度で予測することが実現しました。
この予測モデルは、従来の方法と比べて格段に高い精度を持っています。その要因として、これまでの研究で指摘されてきた予測因子に加えて、血液検査の結果などの多角的な要素を取り入れた点が挙げられます。また、それらの数多くの要素から重要度が高いものを効率的に選び出す前処理という工夫を行った点、そしてさまざまなAI モデルを比較して最適なものを選定した点が挙げられます。さらに、本モデルの予測性能は複数の医療機関のデータを用いて確認され、高い信頼性が証明されています。
この研究で新たに開発されたモデルの導入により、今後は患者さんやその家族が最適なケアプランやリハビリテーションなどの医療サービスを受け、退院後の生活設計をより適切に行うことができることが期待されます。本研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」(2023 年 10 月 9 日付の電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

・慢性硬膜下血腫の重要性: 日本を含む多くの国で高齢化が進む中、患者さんの数が増えている認知機能低下を引き起こす疾患「慢性硬膜下血腫」を本研究で取り上げました。

・高精度な手術後予測: 「慢性硬膜下血腫」の主要な治療法である手術の前に取得した血液検査と臨床所見を組み合わせ、患者さんの手術後の身体機能を高精度に予測する AI モデルを作成しました。
・患者さんの生活の質向上の期待: この予測モデルを使えば、リハビリや退院先の選択とケアプランの立案がより適切になることで、患者さんの生活の質を向上させることができます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 慢性硬膜下血腫:
「慢性硬膜下血腫」とは、脳の表面を覆う硬膜と脳自体の間にゆっくりと血がたまる状態を指します。主な原因は転倒などによる頭部への軽い打撃ですが、特に高齢者の場合は頭への外傷がなくても生じることがあります。これは、年齢とともに脳の体積が少しずつ縮小し、脳と硬膜の間に空間ができることが関与していると考えられており、わずかな外傷でも血腫ができるリスクがあります。慢性硬膜下血腫の初期段階での症状は軽微であることが多く、気づきにくいことがあります。しかし、早期の診断と治療が大切です。頭の画像検査によって血腫の存在を確認し、必要に応じて手術による治療が行われることが一般的です。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Development of machine learning models for predicting unfavorable functional outcomes from preoperative data in patients with chronic subdural hematomas
著者名:
Yutaro Fuse, MD 1,2, Yoshitaka Nagashima, MD, PhD 1*,
Hiroshi Nishiwaki, MD, PhD 3, Fumiharu Ohka, MD, PhD 1,
Yusuke Muramatsu, MD 4, Yoshio Araki, MD, PhD 1,5,
Yusuke Nishimura, MD, PhD 1, Jumpei Ienaga, MD 5,
Tetsuya Nagatani, MD, PhD 5, Yukio Seki, MD, PhD 5,
Kazuhiko Watanabe, MD, PhD 4, Kinji Ohno, MD, PhD 2,3,
Ryuta Saito, MD, PhD 1

 

所属名:
1 Department of Neurosurgery, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Academia-Industry collaboration platform for cultivating Medical AI Leaders (AI-MAILs), Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3 Division of Neurogenetics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
4 Department of Neurosurgery, Handa City Hospital, Handa, Japan
5 Department of Neurosurgery, Japanese Red Cross Aichi Medical Center Nagoya Daini Hospital, Nagoya, Japan
DOI: 10.1038/s41598-023-44029-2

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Sci_231020en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 齋藤 竜太 教授
https://med-nagoya-neurosurgery.jp/