理化学研究所(理研)放射光科学研究センターSACLAビームライン基盤グループビームライン開発チームの井上伊知郎研究員、矢橋牧名グループディレクター、高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チームの犬伏雄一主幹研究員、大阪大学大学院工学研究科物理学系専攻の山内和人教授、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科物質科学専攻の松山智至准教授らの国際共同研究グループは、高いX線強度の下では物質によるX線の回折現象が抑制されて、回折強度が入射したX線強度に比例しなくなる「非線形性」が発現することを発見しました。
本研究成果は、X線の時間幅の自在な制御を可能にする非線形光学素子[1]への応用が期待されます。
国際共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL)[2]施設「SACLA[3]」においてさまざまなX線強度の下でシリコンからの回折現象を測定しました。その結果、ある強度(1019W/cm2)を超えると、X線照射開始からわずか数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の間に物質中の原子のイオン化が進行することで、回折強度が減少することを見いだしました。
物質による回折現象はさまざまなX線光学素子の動作原理として用いられています。今回発見された回折現象の非線形性を利用することで、未開拓であったX線領域の非線形光学素子が実現可能になると考えられます。
本研究は、科学雑誌『Physical Review Letters 』オンライン版(10月17日付)に掲載されました。また、アメリカ物理学会が選ぶ注目論文として、『Physics』誌にて解説記事が掲載されました。
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[1] 非線形光学素子、非線形光学効果
物質の光への応答が光の波の振幅に比例しない光学現象のことを非線形光学効果という。通常、その観測には強力なレーザー光が必要とされる。非線形光学効果を利用した光学素子のことを非線形光学素子と呼ぶ。
[2] X線自由電子レーザー(XFEL)
X線自由電子レーザーとは、X線領域におけるレーザーのこと。半導体や気体を発振媒体とする従来のレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。また、数フェムト秒(1フェムト秒は1,000兆分の1秒)の超短パルスを出力する。XFELはX-ray Free Electron Laserの略。
[3] SACLA
理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにもかかわらず、0.1ナノメートル(nm、1nmは10億分の1m)以下という世界最短波長クラスのレーザーの生成能力を有する。
<タイトル>
Femtosecond reduction of atomic scattering factors triggered by intense x-ray pulse
<著者名>
Ichiro Inoue, Jumpei Yamada, Konrad J. Kapcia, Michal Stransky, Victor Tkachenko, Zoltan Jurek, Takato Inoue, Taito Osaka, Yuichi Inubushi, Atsuki Ito, Satoshi Matsuyama, Kazuto Yamauchi, Makina Yabashi, Beata Ziaja
<雑誌>
Physical Review Letters
<DOI>
10.1103/PhysRevLett.131.163201
<URL>
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.131.163201