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社会科学

2023.10.20

自閉スペクトラム傾向と「0か100か」思考の関係を解明 ~不確実な状況への耐えにくさを介する可能性~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院情報学研究科の平井 真洋 准教授は情報学部学部生(当時)の鈴木 暖生さんとともに、大学生・一般成人を対象とした研究により、自閉スペクトラム傾向の高さは不確実さ不耐性を媒介して二分的思考に至りやすいことを明らかにしました。
医学的な診断名である自閉スペクトラム症(ASD)は神経発達症注5)の一つで、ASDがある方における認知特性の背景にあるメカニズムについては十分明らかにされていないのが現状です。近年ASDがある方の認知特性について、不確実さ不耐性が二分的思考法と関連する可能性を示すモデルが提案されているものの、実証的なエビデンスは得られていませんでした。
本研究では、自閉スペクトラム症傾向と不確実さ不耐性、二分的思考がどのような関係にあるのかを、非臨床群の大学生・一般成人を対象とした質問紙調査により検討しました。その結果、自閉スペクトラム傾向の高さが不確実さ不耐性を介して、二分的な思考を生じさせる可能性を見出しました。
今回のような研究の進展により、ASDがある方の認知特性を考慮した環境づくりや支援を行う基盤として、その認知特性の背後にある要因の特定や、認知特性が生じるメカニズムの解明に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2023年8月28日付学術雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

 

【ポイント】

・ASD(自閉スペクトラム症)注1)において、不確実な状況への耐えにくさ(不確実さ不耐性)注2)が「0か100か」思考(二分的思考) 注3)を生じさせる仮説について、実証的な研究はこれまでなかった。
・非臨床群注4)の大学生・一般成人を対象とした質問紙調査により、自閉スペクトラム傾向の高い方における二分的思考傾向が、不確実さ不耐性を介して生じる可能性があることを明らかにした。
・本研究成果は、ASDにおける認知特性の理解やその特性に配慮した環境の整備や支援の基盤に役立つことが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ASD(自閉スペクトラム症):
神経発達症の一つで、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では、社会的コミュニケーション・対人相互作用における困難さ、行動・興味または活動の限定された反復的な様式など認められる場合に診断される。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-005.html

 

注2)不確実さ不耐性:
不確実さや不確実さの影響に対する否定的な信念体系に由来する素因的特性(Dugas & Robichaud, 2007, 竹林ら2012)。

 

注3)二分的思考:
物事を「白か黒か」「善か悪か」「0か100か」のように捉える思考傾向(Oshio, 2009)。

 

注4)非臨床群:
特定の医学的な診断名(今回は自閉スペクトラム症)をもたないと想定される方。

 

注5)神経発達症:
発達障害と記述することもある。アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では、発達期に発症する一群の疾患を指す。この疾患は通常、発達の初期、多くの場合は小学校入学前に現れ、個人的、社会的、学業的、職業的機能の障害をもたらす発達の状態により特徴づけられる。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Autistic traits associated with dichotomic thinking mediated by intolerance of uncertainty
著者:Noi Suzuki & Masahiro Hirai 
DOI: 10.1038/s41598-023-41164-8                                      
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-023-41164-8 

 

【研究代表者】

大学院情報学研究科 平井 真洋 准教授
https://www.hirailab.cog.i.nagoya-u.ac.jp/

 

【関連情報】

インタビュー記事:「自閉スペクトラム傾向と白黒思考」に学ぶ、誰もが生きやすい社会へのヒント(名大研究フロントライン)