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総合理工

2023.10.20

実用的な熱電材料の単結晶化に成功 ~毒性元素を使わない熱電変換の実現に向けて大きく前進~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の寺崎一郎教授、北海道大学電子科学研究所の太田裕道教授、北海道大学大学院情報科学院博士後期課程のカンギョンワン氏らの研究グループは、釜山大学校のジンヒョンジン教授らとの共同研究により、高温・空気中で安定な高性能熱電材料*1Ba1/3CoO2*2の単結晶化に成功しました。
熱電変換は、工場や自動車から排出される高温の廃熱を再資源化する技術として注目されています。酸化物熱電材料*3は、PbTeなどの金属カルコゲン化物熱電材料*4と比較して、熱的・化学的に安定で、毒性が低いことから、高温・空気中で使用可能な熱電材料として期待されています。2022年、研究グループは、Ba1/3CoO2薄膜が空気中・600℃においても安定であり、数ある酸化物熱電材料の中で最も高い熱電変換性能指数ZT *5(~0.55、空気中・600℃)を示すことを発見しました。
本研究では、Ba1/3CoO2の実用化に向けた課題の一つである単結晶化を実現するため、サファイア基板*6上に作製したBa1/3CoO2単結晶膜を基板から剥離し、その熱電特性を計測しました。その結果、Ba1/3CoO2単結晶膜は剥離後においても剥離前と変わらず高い熱電性能を維持することが明らかになりました。高性能熱電材料Ba1/3CoO2の実用化に向けて大きく前進したと言えます。
なお、本研究成果は、日本時間2023年10月16日(月)公開のACS Applied Electronic Materials誌に掲載されました。

 

【ポイント】

 ・高温・空気中で安定な高性能熱電材料Ba1/3CoO2の単結晶化に成功。
 ・サファイア基板上に作製したBa1/3CoO2単結晶膜を剥離。
 ・剥離後の自立Ba1/3CoO2単結晶膜は高い熱電特性を維持。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語解説】

*1 熱電材料 … 温度差を電気に変換する特性が優れた材料のこと。Bi2Te3、PbTe、SnSeなどの一部の金属カルコゲン化物が熱電材料として良く知られている。
*2 Ba1/3CoO2 … 層状構造を有する酸化物結晶の一つ。サファイア基板上のBa1/3CoO2薄膜は、空気中・600℃においても安定で、優れた熱電特性を示すことから、実用的な熱電材料として期待されている。
*3 酸化物熱電材料 … n型材料として電子ドープSrTiO3や電子ドープZnOなどが知られている。また、p型材料としてNa3/4CoO2、Ca3Co4O9、Ba1/3CoO2などが知られている。
*4 金属カルコゲン化物熱電材料 … 金属元素とカルコゲン元素(S、Se、Te)の化合物の中でも優れた熱電特性を示すもの。Bi2Te3、Sb2Te3、PbTe などが熱電材料として良く知られているが、Pb、SeやTeなどの毒性元素を含むため、大規模な実用化が困難とされている。
*5 熱電変換性能指数ZT … 熱電材料の熱→電気変換効率を示す指標。
性能指数ZT[=(熱電能)2×(導電率)×(絶対温度)÷(熱伝導率)]で表される。
熱電能:熱電材料に温度差を与えたときに発生する熱起電力(電圧)の温度係数のこと。
導電率:電気の流れやすさを示す指標のこと。
熱伝導率:熱の伝わりやすさを示す指標のこと。
*6 サファイア基板 … 酸化アルミニウムの単結晶板のこと。サファイア基板は白色発光ダイオード
用として工業的に多く用いられている。

 

【論文情報】

論文名 Fabrication and Thermoelectric Properties of Freestanding Ba1/3CoO2 Single Crystalline
Films(自立Ba1/3CoO2単結晶膜の作製と熱電特性)
著者名 姜 炅完1、加藤史章2、中埜彰俊2、寺崎一郎2、遠堂敬史3、松尾保孝3、陳 亨秦4
太田裕道31北海道大学大学院情報科学院、2東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科、3北海道大学電子科学研究所、4釜山大学校自然科学大学)
雑誌名 ACS Applied Electronic Materials(米国・化学協会の材料科学の専門誌、IF = 4.7)
DOI 10.1021/acsaelm.3c01129
URL https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsaelm.3c01129
公表日 2023年10月16日(月)(オンライン公開)

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 寺崎 一郎 教授
http://vlab-nu.jp