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農学

2023.10.31

野ネズミを介して、ササの一斉結実が樹木間の競争関係を変える? ~野ネズミの食の好みから新見解~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の鈴木 華実 博士後期課程学生、梶村 恒 教授の研究グループは、森林に生息する主な種子食者である野ネズミが、ササの種子を他の樹木(ミズナラ、ブナ)の種子よりも選好する、また逆にクリ、シロモジよりは選好しないことを実証しました。
ササ類は、数十年から百数十年に一度、開花・結実(その後枯死)する「一回繁殖性注3)」の植物です。同時に広範囲で生じる場合が多く、「一斉開花」「一斉結実」します。この現象によって林内には大量の種子が突如として供給され、種子を主な餌とする動物、さらには同所的に生育する他の植物に多大な影響を及ぼすと考えられていました。しかし、その影響、とくにササ類を含めた植物間の競争関係の真相は不明でした。
今回の実験結果は、ブナ、ミズナラの種子がササの種子よりも捕食リスクが低いことを示唆しており、ササ類の一斉結実が、森林内で更新の機会をうかがう樹木に対してどの程度のインパクトを与えるのかを評価する手掛かりとなります。
本研究の成果は、2023年10月19日付、イギリスの科学雑誌『Ecology and Evolution』に掲載されました。

 

【ポイント】

・ササ類の一斉結実が供給する大量の種子は、種子食者・種子散布者である野ネズミを大発生させるが、他の樹木と比べてササの種子が好まれているのか、その好みが森林の更新注1)に影響を及ぼすのかは分かっていなかった。
・本研究では、樹木種子4種 (クリ、 ミズナラ、 ブナ、 シロモジ注2))それぞれとスズタケの間で野ネズミによる選好度を調べ、ササの種子はクリ、シロモジよりも好まれにくく、ミズナラ、ブナよりは好まれやすいことを明らかにした。
・ササ類の一斉結実という稀なイベントの際、野ネズミがミズナラやブナよりもササを集中して捕食することで、樹木間の競争関係に変化が生じることが推察される。

 
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 
【用語説明】

注1)(森林の)更新:
樹木の個体が、次世代に交代すること。種子から発芽した個体(実生(みしょう))が大部分であるが、根株などから生じた芽に由来する個体(萌芽(ほうが))が成長する場合もある。
注2)シロモジ:
クスノキ科クロモジ属の落葉広葉樹の一種。日本固有種で、中部地方以西の温帯~ 暖帯に分布する。樹高5~6m程度の低木。
注3)一回繁殖性:
一生に一度だけ有性繁殖 (植物の場合は開花・結実) を行い、その後は死亡する繁殖様式。

 

【論文情報】

雑誌名:Ecology and Evolution
論文タイトル:How much do field mice prefer dwarf bamboo seeds? Two-choice experiments between seeds of Sasa borealis and several tree species on the forest floor
著者:Hanami Suzuki (名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程学生/2021年度『名古屋大学融合フロンティアフェロー』), Hisashi Kajimura (名古屋大学大学院生命農学研究科教授)
DOI: 10.1002/ece3.10636
URL: https://doi.org/10.1002/ece3.10636

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 梶村 恒 教授
https://forest-protection-nu.jimdofree.com/