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工学

2023.12.14

窒化アルミニウム(AlN)系ウルトラワイドバンドギャップ半導体 pn接合で理想的な特性を実現 ~AlN系電子デバイス実現に向けた大きな一歩~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の須田 淳 教授、天野 浩 教授と旭化成株式会社らの研究グループは、次世代半導体材料として期待される窒化アルミニウム(AlN)系材料において、理想的な特性を示すpn接合注1)を作製することに世界で初めて成功しました。pn接合は半導体電子素子(電子デバイス)の根幹をなす基本構造であり、本成果は、AlN系電子デバイスの今後の発展の礎となるものです。
現在広く使われている半導体材料であるシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)の4~5倍の禁制帯幅(バンドギャップ)注2)を有するウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体注3)は、高周波デバイス注4)、パワーデバイス注5)の格段の性能向上を実現可能な次世代半導体材料として注目され、世界的に研究が活発化しています。しかしながら、UWBG半導体においては、半導体デバイスの根幹となる理想的なpn接合の実現が困難という課題がありました。本研究グループは、UWBG半導体の一つであるAlN系材料において、高品質AlN単結晶基板上に分布型分極ドーピング(distributed polarization doping)注6)という手法でpn接合を形成することで、電流-電圧特性、電圧-容量特性、電流注入による発光特性において非常に良好な特性を示す、理想的なAlN系pn接合の実現に世界で初めて成功しました。旭化成の子会社であるクリスタル・アイエス(CIS)が開発した高品質AlN単結晶基板、名古屋大学と旭化成で共同開発したAlN系薄膜結晶成長技術(エピタキシャル成長技術)、名古屋大学エネルギー変換実験施設(C-TEFs)の次世代半導体クリーンルームを活用したデバイス形成技術により実現が可能となったものです。
本研究成果は、2023年12月12日15:10-15:35(アメリカ太平洋時間)に世界トップクラスの半導体デバイスに関する国際会議(International Electron Device Meeting, IEDM注7), 米国サンフランシスコ開催)で発表されました。

 

【ポイント】

・次世代半導体材料として期待される窒化アルミニウム(AlN)系材料において、理想的な特性を示すpn接合を作製することに世界で初めて成功した。
・AlN系半導体は次世代の高周波デバイス、パワーデバイス材料として期待を集めている。pn接合は半導体デバイスの根幹をなす基本構造であり、本成果は、AlN系デバイスの今後の発展の礎となる。
・CISが開発した高品質AlN単結晶基板、名古屋大学と旭化成で共同開発したAlN系薄膜結晶成長技術(エピタキシャル成長技術)、名古屋大学未来材料・システム研究所エネルギー変換実験施設(C-TEFs)の次世代半導体クリーンルームの活用により本成果を達成した。産学連携、本学の次世代半導体研究拠点の活用による成果である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)pn接合:

半導体デバイス(素子)の基本構造の一つ。電子が多数存在するn型半導体と正孔が多数存在するp型半導体を積層した構造。電流を一方向にのみ流す整流作用、電流注入による発光、光照射による起電力などの特性を持つ。

 

注2)禁制帯幅(バンドギャップ):

半導体材料の最も重要な物性(特性)値の一つ。半導体中に電子と正孔のペアを形成するために必要なエネルギー。単位は電子ボルト(eV)が使われる。最も広く用いられているSi半導体のバンドギャップは1.1 eV。

 

注3)ウルトラワイドバンドギャップ(UWBG)半導体

バンドギャップがおおむね5 eV以上の半導体。さらに将来を見据えて、SiCやGaNよりさらにバンドギャップの大きな半導体の研究開発も活発化している。代表的な半導体は、ダイヤモンド(5.5 eV)、Ga2O3 (4.8 eV)、AlN (6.0 eV)が挙げられる。原理的にはWBG半導体よりも格段の性能向上が期待できるが、技術的に解決しなければならない課題がいくつかある。特に電子デバイス作製の根幹となるpn接合の実現が非常に難しいことが材料に関わらずUWBG半導体の共通の課題になっている。pn接合を使用しないデバイスの研究もおこなわれているが、pn接合が利用できると、デバイス設計の自由度や利用可能範囲が大きく広がり、また、UWBG半導体の優れた特性を完全に引き出すことが可能となる。

※ワイドバンドギャップ(WBG)半導体:

バンドギャップがおおむね3 eV以上の半導体。バンドギャップは、①半導体デバイスが動作可能な上限温度、②半導体が半導体としての性質を維持できる電界強度(絶縁破壊電界強度)、③半導体が受光、発光する波長、などと密接に関係している。例えば、青色LEDを作製するにはWBG半導体の利用が必須であり、WBG半導体であるGaN(3.4eV)系材料が用いられている。また、パワーデバイス応用においては、絶縁破壊電界強度が大きい材料を使うと、損失が大幅に低減できるため、低損失パワーデバイス実現のためにWBG半導体の研究が活発に進められており、SiC(3.3 eV)やGaNを用いたパワーデバイスが近年実用化されはじめた。

 

注4)高周波デバイス:

マイクロ波やミリ波などの高い周波数の信号を扱う半導体電子デバイスの総称。一般に、周波数を向上させると、それと引き換えに扱える電圧(出力電力)が低下してしまう。特に携帯電話の基地局や通信衛星、レーダーなどでは、高周波と高出力の両立が求められる。既存のSiやGaAsなどでの半導体では限界があり、現在、高周波高出力のデバイスはWBG半導体のGaN系材料の独壇場となりつつある。その先の展開としてUWBG半導体のAlN系材料に大きな期待が寄せられている。

 

注5)パワーデバイス:

電力変換装置(パワーエレクトロニクス機器)の主要部品。整流やスイッチングなどの動作をする半導体電子デバイスの総称。パワーデバイスの低損失化が電力変換の損失低減、省エネ実現につながる。この数年間で、SiCパワーデバイスが鉄道や電気自動車で利用され始め、GaNパワーデバイスが、パソコンの充電器などで利用され始めており省エネに大きく貢献している。さらなる省エネ化を実現できるUWBG半導体に大きな期待が寄せられている。

 

注6)分布型分極ドーピング(distributed polarization doping):

GaNやAlNなどのIII族窒化物半導体結晶はその強いイオン結合性に起因した大きな分極を有している。分極電荷は通常は結晶の表面と裏面に現れるが、GaNとAlNをx: (1-x)の比で混ぜ合わせた混晶半導体(AlxGa1-xN)においては、組成xが変化すると、GaNとAlNの分極差のために、組成変化に対応した正や負の分極電荷が結晶内部に生じる。この電荷に引き寄せられて電子や正孔が集まってくるため、実質的に不純物ドーピングをしたことと同様の効果が期待できる。これを分布型分極ドーピングと呼ぶ。熱によるドナーからの電子放出(あるいはアクセプタへの電子励起)を必要としないため、室温や低温でも十分な伝導度を示すという利点がある。ただし、組成変化層を高品質で作製することが必要で、高度な薄膜結晶成長技術が求められる。

 

注7)IEDM (https://www.ieee-iedm.org/):

米国電気学会(IEEE)が主催する半導体デバイスに関する国際会議。集積回路、イメージセンサー、高周波デバイス、パワーデバイスなど半導体デバイス全体を網羅している。新規性や独創性に優れた論文しか採択されず、半導体デバイス分野のトップクラスの国際会議である。毎年12月にサンフランシスコで開催される。

 

【論文情報】

学会名:69th International Electron Device Meeting (IEDM2023)

論文タイトル: Demonstration of AlN-based Vertical p-n Diodes with Dopant-Free Distributed-Polarization Doping

著者: Takeru Kumabe , Akira Yoshikawa , Maki Kushimoto , Yoshio Honda, Manabu Arai , Jun Suda, Hiroshi Amano

DOI: (Technical digestとしてIEEE digital libraryに掲載後付与予定)

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 須田 淳 教授

https://www.cirfe.imass.nagoya-u.ac.jp/