国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学の三石郁之 講師、作田皓基 博士後期課程学生、安福千貴 博士前期課程学生、藤井隆登 博士前期課程学生、東京大学先端科学技術研究センターの三村秀和 教授と山口豪太 客員研究員、夏目光学株式会社の橋爪寛和 取締役常務による研究グループは、1マイクロメートルを上回る高い精度で、X線望遠鏡用の高精度筒形ミラーを作製する技術を確立しました。
宇宙には、私たちの目には見えないX線を放つ高エネルギーの天体がたくさんあります。これらを詳しく調べるためにはX線望遠鏡(注1)が必要です。その性能の鍵を握るのは、大型のミラーをどれだけ正確に作製できるかにあります。研究グループは、電鋳法(注2)と呼ばれる転写(レプリカ)手法を用いたX線ミラー作製技術の開発に取り組んできました。しかし、ミラー内部に穴欠陥が生じてしまうため、これまでは小指ほどの小さなミラーしか作ることができませんでした。今回、穴欠陥の有効な防止方法を発見したことで、X線望遠鏡に適用可能な大きなミラーを作れるようになりました。本研究成果は、X線望遠鏡の高性能化とX線天文学の進展に貢献し、望遠鏡開発の低コスト化にも寄与すると期待されます。
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(注1)X線望遠鏡
宇宙X線を観測するために特別に設計された望遠鏡です。X線は非常に高いエネルギーを持つ光です。地球の大気はX線を吸収するため、X線望遠鏡は通常、宇宙空間で観測を行います。X線望遠鏡は、宇宙の最も高エネルギーな現象を研究するのに不可欠なツールです。例えば、ブラックホール、中性子星、超新星残骸などがX線を放出しています。X線望遠鏡を使用することで、これらの天体の性質や、高エネルギー物理学の基本原則についての理解を深めることができます。X線望遠鏡の設計は、可視光を扱う通常の望遠鏡とは異なります。高度な技術と精密な構造が要求されるため、その開発と運用は非常に複雑で高価です。日本は、X線天文学の分野で重要な役割を果たしており、これまでも多くのX線天文衛星を打ち上げています。例えば、「すざく」(ASTRO-EII)や最近打ち上げられた「XRISM」などがその例であり、これらにはX線望遠鏡が搭載されています。
(注2)電鋳法
めっき技術を応用した形状転写手法です。目的とする形状の反転形状を持つ型の表面に、金属を厚くめっきし、それを分離し目的とする製品を得ます。一般的な加工では難しい、微細な凹凸や中空構造を高精度に作製できる利点を持ちます。この特長から、金型製造などにおいて不可欠な技術の一つとなっています。
雑誌名:Review of Scientific Instruments
題 名:Efficient and precise fabrication of Wolter type-I X-ray mirrors via nickel electroforming replication using quartz glass mandrels
著者名:Gota Yamaguchi*, Yusuke Matsuzawa, Takehiro Kume, Yoichi Imamura, Hiroaki Miyashita, Akinari Ito, Koki Sakuta, Kazuki Ampuku, Ryuto Fujii, Kentaro Hiraguri, Hirokazu Hashizume, Ikuyuki Mitsuishi, and Hidekazu Mimura
*責任著者
DOI:10.1063/5.0160262