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農学

2023.12.14

ダイノルフィン受容体を発現するキスペプチンニューロンが 正常な生殖機能に必要であることを証明

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の長江 麻佑子 学術振興会特別研究員、上野山 賀久 准教授、井上 直子 准教授、束村 博子 教授らの研究グループは、生理学研究所遺伝子改変動物作製室の平林 真澄 准教授との共同研究で、ダイノルフィン受容体を発現するキスペプチンニューロンの亜集団が、正常な卵胞発育や排卵に必要であることを明らかにし、家畜の繁殖障害の治療やヒトの不妊治療の知識基盤となり得る知見を得ました
脳内でキスペプチンを分泌するニューロンは、性腺刺激ホルモン注5)の分泌に必要不可欠であり、ヒトを含むほ乳類の生殖機能を最上位から制御することが知られています。特に、脳の視床下部弓状核に分布するキスペプチンニューロンは、パルス状(間欠的な放出)の性腺刺激ホルモン分泌を介して卵胞発育を制御し、また前腹側室周囲核注6)に分布する同ニューロンは、サージ状(持続時間が長い大量放出)の性腺刺激ホルモン分泌を制御することで排卵を司ると考えられています。これら2つの脳領域のキスペプチンニューロンには、ダイノルフィン受容体が発現していますが、これらのニューロンにおけるダイノルフィンの役割は解明されていませんでした。
本グループは、遺伝子組換えラットを作製し、ダイノルフィン受容体を発現するキスペプチンニューロンの亜集団においてのみ、後天的にキスペプチン遺伝子を欠損させました。その結果、視床下部弓状核キスペプチンニューロンの数は約3%に、前腹側室周囲核のキスペプチンニューロンの数は約50%に減少しました。同雌ラットはこれらのわずかに残ったキスペプチンニューロンでも繁殖可能でしたが、野生型ラットと比べ、性周期が長くなり、産仔数も減少しました。さらに、同雌ラットは性腺刺激ホルモン分泌能を有するものの、明瞭なパルス状分泌は消失し、サージ状の分泌は半減していました。これらの結果から、本研究グループは、ダイノルフィン受容体を発現するキスペプチンニューロンの亜集団が、卵胞発育や排卵を制御していることを世界で初めて示しました。家畜の繁殖障害の約50%、ヒトの不妊症の約25%は、視床下部の繁殖中枢の機能不全によると考えられています。本知見は、家畜の繁殖障害の治療、ヒトの不妊治療などへの応用が期待されます。
この研究成果は、2023年11月22日に「Scientific Reports」誌に掲載されました。

 

【ポイント】

・ラットを用いて、ダイノルフィン受容体注1)を発現するキスペプチン注2)ニューロン注3)が正常な生殖機能に必要であることを示した。

・わずか3%の弓状核注4)キスペプチンニューロンで繁殖可能であることを示した。

・本知見は、家畜の繁殖障害治療やヒトの不妊治療などの知識基盤となる可能性がある。

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)ダイノルフィン:

抑制性の神経伝達物質。

注2)キスペプチン:

2001年に発見された約50個のアミノ酸からなるペプチドホルモン。哺乳類の繁殖を最上位でコントロールしていることで大きな話題となった。

注3)キスペプチンニューロン:

キスペプチンを合成、分泌するニューロン。その細胞体はおもに視床下部弓状核と視床下部前方に位置する前腹側室周囲核 (動物種によっては視索前野) と呼ばれる2つの脳領域に密集して存在する。

注4)弓状核:

摂食や生殖などの本能行動を司る様々なニューロンが局在する視床下部後方の脳領域のひとつ。

注5)性腺刺激ホルモン:

下垂体から分泌され、性腺すなわち卵巣や精巣の機能を刺激するホルモンの総称。

注6)前腹側室周囲核:

視床下部前方の脳領域のひとつ。げっ歯類においては、雄に比べ雌においてニューロン数が多く、雌特有の機能 (排卵) を担うと考えられてきた。

 

【論文情報】

雑誌名:Scientific Reports

論文タイトル:Conditional Oprk1‐dependent Kiss1 deletion in kisspeptin neurons caused estrogen‐dependent LH pulse disruption and LH surge attenuation in female rats

著者:Mayuko Nagae1,2, Koki Yamada1, Yuki Enomoto1, Mari Kometani1, Hitomi Tsuchida1, Arvinda Panthee1, Miku Nonogaki1, Nao Matsunaga1, Marina Takizawa1, Sena Matsuzaki1, Masumi Hirabayashi2, Naoko Inoue1, Hiroko Tsukamura1, and Yoshihisa Uenoyama1

1Laboratory of Animal Reproduction, Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University (名古屋大学大学院生命農学研究科動物生殖科学研究室)

2Section of Mammalian Transgenesis, Center for Genetic Analysis of Behavior, National Institute for Physiological Sciences (生理学研究所行動・代謝分子解析センター遺伝子改変動物作製室)

DOI: 10.1038/s41598-023-47222-5

URL: https://www.nature.com/articles/s41598-023-47222-5

 

【研究代表者】

生命農学研究科 上野山 賀久 准教授

https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~hanshoku/ReprodWeb/home.html