国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の小澤悠人医員、竹上靖彦 病院講師、今釜史郎 教授らの研究グループは、阻血性大腿骨顆部壊死マウスモデル(*5)において骨粗しょう症治療薬である抗スクレロスチン抗体による大腿骨顆部圧潰の予防と、抗スクレロスチン抗体投与群にてインターロイキン-6(IL-6)の発現が低下していることを発見しました。また、この研究は抗スクレロスチン抗体が Wnt/βカテニンシグナルを効果的に調節し、IL-6 発現と関連し大腿骨頭壊死症の骨圧潰を防ぐ可能性があることを示しました。
大腿骨頭壊死症は軟骨の壊死を特徴とする関節破壊につながる重篤な状態であり、特定疾患にもなっています。通常大腿骨頭壊死の治療には人工股関節置換術が行われますが、若年の人工股関節置換術の成績は十分ではありません。
本研究ではまずヒト大腿骨頭のβカテニン、IL-6 染色を行い、移行層でβカテニン、IL-6 の発現が増加していることを示しました。また阻血性大腿骨顆部壊死マウスモデルに抗スクレロスチン抗体を投与し、大腿骨顆部の圧潰の程度、骨代謝、及び Wnt/βカテニンシグナルの影響を調べました。組織学的には抗スクレロスチン抗体が早期の壊死からの回復、壊死の特徴である Empty lacunae(*6)の早期減少、Wnt/βカテニンシグナルの活性化を引き起こし、これらがIL-6を仲介とした炎症と関連している可能性を示唆しました。またμCT(*7)にて抗スクレロスチン抗体群で阻血性大腿骨顆部壊死モデルにおいても骨量の増加、骨端圧潰の予防、及び圧潰強度の上昇をおこすことを示した。、抗スクレロスチン抗体が骨壊死の治療に役立つ可能性を示唆しました。
本研究成果は、雑誌『Bone』2024 年4月号(第 181 巻)に掲載されました。
・阻血性大腿骨頭壊死症でβカテニン(*1)、インターロイキン-6(IL-6)(*2)が移行層で増加していたことを見出し、阻血性大腿骨頭壊死症と Wnt/βカテニン経路(*3)との関連を示した。
・Wnt/β カテニンシグナルを亢進させる作用のある、骨粗しょう症薬である抗スクレロスチン抗体(*4)の投与により、炎症性サイトカインである IL-6 を抑制することで破骨細胞形成を抑制し、阻血性骨壊死後の骨端圧潰を予防することを示唆した。
・本研究の結果は難病である特発性大腿骨頭壊死症への応用が期待される。
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*1 β カテニン:Wnt シグナル伝達経路において重要な役割を果たすたんぱく質。細胞の増殖、分化にかかわる。
*2 インターロイキン-6(IL-6):サイトカインと呼ばれるたんぱく質の一種。さまざまな免疫細胞から分泌され炎症を関連している。
*3 Wnt/βカテニン経路:Wnt シグナル分子によって活性化し、βカテニンが核内に蓄積することによって活性化する経路。がんの発生や骨粗しょう症と関連する。
*4 抗スクレロスチン抗体:骨に特異的に発現する Wnt/βカテニン経路の阻害物質であるスクレロスチンを阻害することで Wnt/βカテニン経路の活性化をする抗体。近年骨粗しょう症治療に使われる。
*5 阻血性大腿骨顆部壊死マウスモデル:大腿骨顆部に分布する4本の血管を収縮することで効率に大腿骨顆部の壊死をおこすことができるマウスモデル。
*6 Empty lacunae:細胞が失われてできた空洞のこと。骨壊死の特徴的な病理像。
*7 μCT:骨組織などの微細構造や解剖学的特徴を調査するために使用される CT。
雑誌名:Bone
論文タイトル:Anti-sclerostin antibody therapy prevents post-ischemic osteonecrosis bone collapse via interleukin-6 association
著者名・所属名: Yuto Ozawa, Yasuhiko Takegami, Yusuke Osawa, Takamune Asamoto, Shinya Tanaka, Shiro Imagama
Department of Orthopaedic Surgery, Nagoya University Graduate School of Medicine; 65 Tsurumai-cho, Showa-ku, Nagoya, Japan.
DOI: 10.1016/j.bone.2024.117030
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Bon_240314en.pdf