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医歯薬学

2024.03.13

重症COVID-19における血液凝固プロファイルの変化の解明 -過凝固状態の消失と治療経過の不良との関係性を明らかに-

名古屋大学医学部附属病院救急科の春日井大介 病院助教、田中卓 病院助教、山本尚範 講師、小児科の鈴木高子 医員、名古屋掖済会病院救命センターの後藤縁 センター長(元 名古屋大学医学部附属病院救急科講師)らを中心とする多施設共同臨床研究で、COVID-19 重症化時において、様々な部位に血栓ができやすくなる過凝固状態の消失が治療経過の不良と関連することを明らかにしました。

 

これまでの研究で、COVID-19 患者は過凝固状態であることが報告されてきました。入院を要する中等症の COVID-19 患者に対しては治療的な抗凝固療法が有効であることが明らかになっている一方で、集中治療室での治療を要する重症な COVID-19 においては、複数の大規模なランダム化比較試験においても治療的抗凝固療法の有効性を確認することできませんでした。本研究は、国内の複数施設が協力して行った前向き観察研究において、血液粘弾性検査(ROTEM Sigma TM)を用い、COVID-19 重症化過程での血液凝固プロファイルの変化を明らかにしました。その結果、血小板成分が過凝固状態に寄与することが分かり、重症例では過凝固の程度が高まりますが、過凝固状態が消失した群では予後が不良であることが判明しました。過凝固状態の消失は、補体経路のうち特に代替経路に関与する C3※3 の消費と関連しています。この特徴は、血小板の減少、ヘマトクリットの低下など、血栓性微小血管障害(TMA)に類似した変化と関連していることがわかりました。この研究により、重症 COVID-19 においては過凝固とは異なる特徴的な凝固異常が難治化に関連していることが示され、難治症例に対する病態解明及び効果的な治療開発につながることが期待されます。

 

本研究成果は、国際科学誌「Frontiers in Immunology」 (英国時間 2024 年 3 月 11 日付の電子版) に掲載されました。

 

【ポイント】

・COVID-19 において、血液凝固のプロファイル※1 が重症化に伴って大きく変化することが明らかになりました。
・血液過凝固状態の消失が COVID-19 の治療経過の不良と関連しています。この消失は補体代替経路※2 の消費と関連していました。
・血液凝固プロファイルの評価により重症 COVID-19 の異なる治療経過を判断することが可能になると予想され、難治症例における凝固異常をターゲットとした治療の開発につながることが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 プロファイル:
ここでは、血液粘弾性検査である ROTEM SigmaTM を用いて、血餅の形成過程及び線溶の過程に関するパラメーターを取得しました。

 

※2 補体代替経路:
補体系は、血液中に存在する一連のタンパク質から構成され、病原体の侵入に対する即時の防御メカニズムを提供します。補体系には、主に 3 つの活性化経路があります:古典的経路、レクチン経路、そして代替経路です。代替経路は、特定の抗体に依存しない方法で活性化されます。これは、一般的に病原体の表面上の特定の分子パターンを直接認識することにより始まります。代替経路は、主に微生物の表面上の独特の炭水化物構造を識別することによって、自動的に活性化されます。

 

※3 C3:
代替経路を構成する主要な成分の一つです。代替経路が活性化すると、補体タンパク質 C3 を分裂させ、C3a と C3b に分けます。C3b は病原体の表面に結合し、オプソニン化(病原体を食細胞による飲み込みやすくするプロセス)を促進します。さらに、C3b は補体のカスケードを進行させ、細胞の溶解や炎症の促進、免疫応答の増強を行います。

 

【論文情報】

雑誌名:Frontiers in Immunology
論文タイトル:Association between Loss of Hypercoagulable Phenotype, Clinical Features and Complement Pathway Consumption in COVID-19
著者名・所属名:
Daisuke Kasugai 1*; Taku Tanaka 1; Takako Suzuki 2, Yoshinori Ito 2, Kazuki Nihida 3, Masayuki Ozaki 4, Takeo Kutsuna 5, Toshiki Yokoyama 6, Hitoshi Kaneko 7, Ryo Ogata 8, Ryohei Matsui 9, Takahiro Goshima 10, Hiroshi Hamada 11, Azusa Ishii 12, Yusuke Kodama 13, Naruhiro Jingushi 1, Ken Ishikura 14, Ryo Kamidani 15, Masashi Tada 16, Hideshi Okada 15, Takanori Yamamoto 1, Yukari Goto 1,17.

 

1 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan; 2 Department of Pediatrics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan; 3 Department of Biostatistics, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan; 4 Department of Critical Care Medicine, Komaki City Hospital, Komaki, Japan; 5 Department of Respiratory Medicine, Daido Hospital, Nagoya, Japan; 6 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Tosei General Hospital, Seto, Japan ; 7 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Tokyo Metropolitan Tama Medical Center, Fuchu, Japan; 8 Department of Respiratory Medicine, Meitetsu Hospital, Nagoya, Japan; 9 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Nagoya City University hospital Nagoya, Japan; 10 Department of Emergency and General Internal Medicine, Fujita Health University, Toyoake, Japan; 11 Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Nagoya Medical Center, Nagoya, Japan; 12 Department of Respiratory Medicine, Chukyo Hospital, Nagoya, Japan; 13 Department of Internal Medicine, Kyoritsu General Hospital, Nagoya, Japan; 14 Department of Emergency and Disaster Medicine, Mie University Graduate School of Medicine, Tsu, Japan; 15 Department of Emergency and Critical Care Medicine, Gifu University Graduate school of Medicine, Gifu, Japan; 16 Department of Internal Medicine, SaiShukan Hospital, Kitanagoya, Japan; and 17 Department of Emergency Medicine, Nagoya EkiSaikai Hospital, Nagoya, Japan.
* Corresponding Author
DOI: 10.3389/fimmu.2024.1337070

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Fro_240313en.pdf

 

【研究代表者】

医学部附属病院 春日井 大介 病院助教
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/departments/emergency_c-m/