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生物学

2024.04.24

最古の発光生物?カンブリア時代に起源をもつサンゴの生物発光

名古屋大学高等研究院兼大学院理学研究科(現:東北大学 学際科学フロンティア研究所)の別所-上原 学 特任助教は、フロリダ国際大学(米国)、スミソニアン博物館(米国)、モントレー湾水族館研究所(米国)、ハーヴェイ・マッド大学(米国)との共同研究で、刺胞動物注6)門八放サンゴ類において生物発光は単一の進化的起源を持つこと、さらにそれがおよそ5億4千万年前のカンブリア紀にまで遡ることを新たに発見しました。
刺胞動物門花虫類は、イソギンチャクや珊瑚礁を形成する造礁サンゴなど約7500種を含む多様な動物のグループです。これら花虫類において、発光種の多様性やその進化に関する研究はほとんど進んでいませんでした。
別所-上原特任助教らの国際研究チームは、花虫類における生物発光の進化史を推定し、八放サンゴ類の共通祖先において発光能力が獲得されたこと、さらに、その時期はおよそ4億5千万年のカンブリア紀にまで遡ることを明らかにしました。本研究は、海洋生態系を構成する主要な生物である花虫類や、それを取り巻く生物の生態学的な関係を明らかにする基礎となり、生物多様性を保全するための基礎的な情報を提供したことになります。また、未知の発光サンゴの発光遺伝子が豊富に存在することが示唆され、これらの中から将来的に実用的な生命技術の開発につながっていくことが期待されます。
本研究成果は、2024年4月24日午前8時1分(日本時間)付国際科学雑誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載されます。

 

【ポイント】

・サンゴやイソギンチャクを含む花虫類注1)には、暗闇で光る発光生物がいくつも知られていた。
・花虫類の網羅的な遺伝子情報を用いた分子系統解析注2)および祖先形質推定法注3)により、八放サンゴ綱の共通祖先において生物発光注4)の起源があることが推定された。
・化石記録を用いた年代推定によると、およそ5億4千万年前のカンブリア紀に八放サンゴ綱の発光の起源が遡ることが示唆された。生物発光の起源として、知られている中で最も古いものである。
・生物の多様性が急激に増加したカンブリア爆発注5)の要因は眼の誕生とも言われており、それを巧みに利用した生物発光の登場が同時期というのは当時の生態系を考える上で重要な発見である。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)花虫類(Anthozoa):
花虫類は、八放サンゴ綱(Octocorallia)と六放サンゴ綱(Hexacorallia)により構成される刺胞動物門に属する海洋生物の一群。これらは主に海底で固着生活し、華やかな色彩と形態を持ち、珊瑚礁の形成など生態系を支える重要な役割を持つ。八放サンゴ綱は、ヤギやウミエラなどを含み、浜辺などから深海までさまざまな生息環境に発光種が33属から報告されている。一方で、造礁サンゴのミドリイシやイソギンチャクなどを含む六放サンゴ綱には6属だけ報告されている。
注2)分子系統解析(Molecular phylogenetics):
DNAやRNA、タンパク質の配列情報を基に、生物間の進化的関係を推定する方法。この技術により、生物の系統樹(進化の歴史を表す樹形図)を作成し、種間の親縁関係や進化の過程を明らかにすることができる。
注3)祖先形質推定法(Ancestral state reconstruction):
既知の種の形質(特徴)と系統樹を基に、共通の祖先が持っていたと推定される形質を推測する方法。この解析手法により、進化の過程でいつどのような特徴が現れたかを推定することができる。
注4)生物発光(Bioluminescence):
生物発光は、生物が化学反応を通じて光を発生させる現象。この能力は、ホタルや魚類など、陸上および海洋のさまざまな生物に見られる。花虫類では水族館にも展示されている、砂浜などに生息するウミサボテンなどがもっとも身近な発光種。近年、深海に生息する花虫類の多くが発光能力を持つことが分かってきたが、そのほんの一部しか調べられていない。今後の研究で、さらに多くの発光する花虫類が見つかることが期待される。
注5)カンブリア爆発(Cambrian explosion):
約5億4千万年前に起こったとされるカンブリア爆発は、地球の歴史上で生物の多様性が急激に増加した期間を指す。この時期に多くの主要な動物門が突然出現し、現代の生物多様性の基礎が形成されたとされている。この現象は、生物進化における重要な転換点の一つと考えられている。
注6)刺胞動物(Cnidalia):
刺胞動物門はクラゲやイソギンチャクなどの刺胞をもつ生物を含む動物のグループである。クラゲの仲間にも、オワンクラゲなどを含むヒドロ虫綱軟クラゲ目などにも発光種が知られているが、八放サンゴ類とは異なる発光の仕組みを持ち、その進化起源も異なると考えられる。

 

【論文情報】

雑誌名: Proceedings of the Royal Society B
論文タイトル: Evolution of bioluminescence in Anthozoa with emphasis on Octocorallia
著者: Danielle M. DeLeo, Manabu Bessho-Uehara (名古屋大学), Steven H.D. Haddock, Catherine S.  McFadden and Andrea M. Quattrini
DOI: 10.1098/rspb.2023.2626

 

 

【研究代表者】

高等研究院/大学院理研究科 別所-上原 学 特任助教
https://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/new/index.html