TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2024.05.21

体細胞復帰変異によるモザイク健常皮膚由来の培養表皮シートを用いた表皮融解性魚鱗癬治療の可能性を示唆

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の棚橋 華奈(たなはし かな)講師、秋山 真志(あきやま まさし) 教授、武市 拓也(たけいち たくや) 准教授、秋田大学大学院医学系研究科皮膚科学・形成外科学講座の河野 通浩(こうのみちひろ)教授、株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)の井家 益和(いのいえ ますかず)執行役員らの研究グループは、世界で初めて表皮融解性魚鱗癬患者の体細胞復帰変異によるモザイク健常皮膚由来培養表皮シートの作成に成功し、その培養表皮シートは健常表皮細胞を多く有していました。同研究グループはそれらの患者自身に由来する培養表皮シートの植皮による治療研究を施行し、短期間では良好な効果を得ました。
表皮融解性魚鱗癬は、皮膚表面の表皮細胞の細胞骨格として働くケラチン1、または、ケラチン10の遺伝子変異により発症します。それらの遺伝子変異の結果、ケラチンネットワークの形成が障害され、表皮細胞が脆弱になり、水疱形成と全身の広い範囲の皮膚に過剰な角化と多量の鱗屑(*1)を来します。表皮融解性魚鱗癬は、厚労省による指定難病「先天性魚鱗癬」に含まれる疾患であり、病因遺伝子・タンパク質は解明されているものの、有効な治療法が確立していないのが現状です。
表皮融解性魚鱗癬の一部の患者では、病変部皮膚の表皮細胞において、病因遺伝子変異が消失し、正常な野生型に戻る変異(復帰変異)を来し、病因遺伝子を持たない表皮細胞が生じることがあります。この病因遺伝子変異を持たない、正常化した表皮細胞に由来する細胞集団は、病変皮膚の中に健常な皮膚領域をモザイク状(*2)に形成します(体細胞復帰変異によるモザイク健常皮膚)。本研究グループは、患者のこのモザイク健常皮膚から表皮細胞を採取し、培養することで、患者自身の表皮細胞から成り、病因遺伝子変異を持たない細胞を多く有する培養表皮シート(*3)の作成に成功しました。さらに、その培養表皮シートを患者自身の病変部皮膚へ移植して、魚鱗癬の治療を行い、移植後4週後では良好な治療効果を得ました。
本研究を元に、さらに長期に安定した効果を得られる治療法の開発が進むことが期待され ます。
本研究成果は、2024年5月13日付英国の医学雑誌『British Journal of Dermatology』オンライン版に掲載されました。

 

【ポイント】

・世界で初めて表皮融解性魚鱗癬患者の体細胞復帰変異によるモザイク健常皮膚由来培養表皮シートの作成に成功し、その培養表皮シートは健常表皮細胞を多く有していました。
・今回作製に成功した患者自身に由来する培養表皮シートを用いて、患者の皮膚病変の治療研究を行ったところ、植皮後 4 週時点において良好な効果を示しました。
・本研究成果を元に、表皮融解性魚鱗癬に対してさらに長期に安定した効果を得られる治療法の開発が進むことが期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

*1)鱗屑:皮膚表面の角層細胞が剥がれ落ちたものです。
*2)モザイク状:ここでのモザイクとは、持っている遺伝子が異なる細胞からなる表皮のある程度の大きさの領域が、隣り合い、混ざりあって存在する状態のことです。
*3)培養表皮シート:3cm2程の皮膚を皮膚生検で採取し、その検体に含まれる表皮細胞だけを培養し、増殖させ、作成した薄い表皮細胞のシートのことです。重症熱傷などで表皮が大きく欠損した患者さんに植皮する等の患者さん自身の細胞から成る培養表皮シートを用いた治療が、ずいぶん前から実用化されています。

 

【論文情報】

雑誌名: British Journal of Dermatology
論文タイトル: Treating epidermolytic ichthyosis and ichthyosis with confetti with epidermal autografts cultured from revertant skin
著者名・所属名: Kana Tanahashi 1, Michihiro Kono 1,2, Takenori Yoshikawa 1, Yuika Suzuki 1, Masukazu Inoie 3, Yachiyo Kuwatsuka 4, Fumie Kinoshita 4, Takuya Takeichi 1,5 and Masashi Akiyama 1


1 Department of Dermatology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2 Department of Dermatology and Plastic Surgery, Akita University Graduate School of Medicine, Akita, Japan
3 Japan Tissue Engineering Co., Ltd., Gamagori, Japan
4 Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
5 Nagoya University Institute for Advanced Research, Nagoya, Japan
DOI: 10.1093/bjd/ljae193

 

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Bri_240521en.pdf

 

【研究代表者】

医学系研究科 秋山 真志 教授

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/derma/