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化学

2024.07.12

準結晶と不整合変調構造の性質を併せ持つ非周期結晶構造を発見 ~非周期結晶構造の統一的理解に向けた超空間からのアプローチ~

東京工業大学 理学院 物理学系の松原虎之介大学院生、古賀昌久准教授、名古屋大学 未来社会創造機構 量子化学イノベーション研究所の高野敦志特任教授、豊田理化学研究所の松下裕秀フェロー(研究当時、現 公益財団法人大幸財団常務理事)、近畿大学 理工学部 理学科の堂寺知成教授らの研究チームは、準結晶(用語1)不整合変調構造(用語2)の性質を併せ持つ非周期結晶(用語3)構造を発見し、超空間の枠組みの中で準結晶と不整合変調構造を包括的に記述できることを明らかにした。
非周期結晶は、準結晶や不整合変調構造などの原子配列構造が周期性を持たない物質群を構成している。これらは超空間(用語4)という概念において共通の基盤を持っているが、両者の関係は謎に包まれたままであった。本研究では、任意の貴金属比(用語5)を自己相似比として持つ準結晶タイリング(用語6)を理論的に提唱した。構造因子を解析することで、このタイリングが準結晶と不整合変調構造両方の特徴を持つことが明らかとなった。また、貴金属比準結晶タイリングにおける超空間の枠組みを応用することで、実験およびシミュレーション上のソフトマター系における非周期結晶構造ならびに非自明なドメインウォール構造を解析した。この解析の中で、ドメインウォールは超空間に付加的な次元を導入する準結晶の本質的な構成要素であることが分かった。これらの結果は、非周期結晶の複雑な世界に新たな視点を提供し、これまで明らかでなかったドメインウォール構造の広い意味合いを与えるものである。
本研究成果は2024年7月11日付(現地時間)の英科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン版に掲載される。

 

【ポイント】

○準結晶でありながら不整合変調構造としての性質を併せ持つ非周期結晶構造を理論的に提唱
○超空間の枠組みを用いることで、貴金属比準結晶タイリングだけでなく、高分子実験やコロイドシミュレーションにおける不整合変調構造も包括的に記述可能
○新たな準結晶・不整合変調構造材料の探索のための重要な指針として期待

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(1) 準結晶:原子配列が無理数比によって特徴付けられる自己相似構造を有する固体。その構造は5次元や6次元の高次元周期格子を無理数の角度で切断することが得られる。1980年代に準結晶を初めて発見したダニエル・シェヒトマン博士は2011年ノーベル化学賞を受賞している。
(2) 不整合変調構造:結晶の無理数倍の周期を有する外場などによって変調された固体。
(3) 非周期結晶:原子配列が非周期的な秩序を有する固体の構造クラスの総称。準結晶と不整合変調構造もこの構造クラスの中に含まれる。
(4) 超空間:数学的な記述によって表現される5次元や6次元空間。非周期結晶の構造は超空間中の周期格子の3次元空間への射影として記述することができる。
(5) 貴金属比:x2 - kx - 1 = 0 (kは自然数)の正の解として与えられる値。これらの値は人間が美しいと感じる比率であり、例えばk=1の場合はよく知られる黄金比に対応する。貴金属比は準結晶の自己相似比として現れる。
(6) タイリング:数種類の多角形タイルを平面上に隙間なく敷き詰めた際に得られる構造。さまざまな準結晶構造がタイリングによって表現できることが知られている。

 

【論文情報】

掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Aperiodic approximants bridging quasicrystals and modulated structures
著者:Toranosuke Matsubara, Akihisa Koga, Atsushi Takano, Yushu Matsushita, and Tomonari Dotera
DOI:10.1038/s41467-024-49843-4

 

【研究代表者】

未来社会創造機構 高野 敦志 特任教授
https://phys-chem-polym.chembio.nagoya-u.ac.jp/