名古屋大学大学院工学研究科の何 佳磊(ヒ ジャレイ)博士後期課程学生(現在:上海交通大学医学院虹橋国際医学研究院 助手研究員)、竹岡 敬和 准教授らの研究グループは、生物も利用するコレステリック液晶(Cholesteric liquid crystal: CLC)に蛍光色素を導入したマイクロメーターサイズで粒径の揃った蛍光性コレステリック液晶(FCLC)粒子を開発しました。FCLC粒子の調製の際に、キラルドーパント注4)の添加量を変えると液晶のピッチが変化するため、ピッチに応じて構造色の色相が変えられます。さらに、キラルドーパントの添加は、ピッチの変化だけでなく、液晶相も変化が生じる結果、円偏光発光(CPL)の方向が反転することも分かりました。マイクロメーターサイズの粒子に加工したことで、円偏光構造色を併せ持つ顔料として利用できます。FCLC粒子の円偏光性構造色とCPLを組み合わせることで、特定の円偏光板の下でしか表示できない偽造防止用QRコードなどが得られます。特定の円偏光フィルター下でのみ表示され、紫外線蛍光照射で正しく解読できる二重の偽造防止効果を持つ偽造防止ラベルを作成することができます。本研究成果は、2024年7月25日付、米国科学誌ACSから出版される「ACS Applied Materials & Interface」に掲載されました。
・円偏光構造色注1)と円偏光発光(CPL)注2)を示す球状コレステリック液晶(CLC)注3)粒子の開発。
・偽造防止用QRコードなどにも利用可能な顔料に。
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注1)円偏光構造色:
光の進行に従い電場ベクトルが進行方向に垂直な面内で回転する状態を円偏光と言う。電場ベクトルが右回転する場合を右円偏光、左回転する場合を左円偏光と呼ぶ。このような偏光が、キラルな分子の集合体によって生じうる。キラル分子が形成する集合体の構造によって、その際に観察される円偏光の波長が可視光領域にあれば、キラル円偏光構造色として観測される。
注2)円偏光発光(CPL):
偏光面が右回りまたは左回りに回転しながら伝搬する鏡像異性(キラル)な蛍光が生じる現象。立体視デバイスや量子コンピューターなどへの利用が期待されている。
注3)コレステリック液晶(CLC):
コレステリック液晶は、ネマチック液晶※のように、一つの面内で分子は一定方向に配向しているが、隣接する面内では分子配向軸にねじれがある。その結果、全体としては面の垂直軸の周りに配向方向が螺旋構造をとる。螺旋のピッチが可視光の波長と同程度の場合、コレステリック液晶の薄膜は可視光の特定の波長の光をブラッグ反射することで面偏光性の構造色を示す。コレステロールの誘導体がこのような液晶構造を取っていたことから、コレステリック構造と呼ばれる。
※ネマチック液晶:構成分子の配向構造を持つが、三次元的な位置秩序をもたない液晶
注4)キラルドーパント:
キラルドーパントは、特定の材料に加えることで、その材料のキラリティ(左右非対称性)を導入する化学物質である。キラルドーパントは特に液晶ディスプレイ技術や光学材料の分野で重要な物質である。
雑誌名:ACS Applied Materials & Interface
論文タイトル:Circularly Polarized Luminescence Chirality Inversion and Dual Anti-Counterfeiting Labels Based on Fluorescent Cholesteric Liquid Crystals Particles
著者:Jialei Hea,*, Mitsuo Haraa, Ryosuke Ohnukib, Shinya Yoshiokab, Tomoyuki Ikaia, Yukikazu Takeokaa,*
a Department of Molecular & Macromolecular Chemistry, Graduate School of Engineering, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8603, Japan
b Department of Physics and Astronomy, Faculty of Science and Technology, Tokyo University of Science, Yamazaki, Noda 278-8510, Japan *本学関係者
DOI:10.1021/acsami.4c08331
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsami.4c08331
大学院工学研究科 竹岡 敬和 准教授
https://ytakeoka.xcience.jp/