医歯薬学
2024.08.07
脂質異常症を改善する新規化合物の開発に成功 ~副作用の少ない新たな治療薬としての応用に期待~
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)※の南保 正和 特任准教授、佐藤 綾人 特任准教授、キャサリン クラッデン 教授、吉村 崇 教授、大学院生命農学研究科の大川 妙子 准教授らの研究グループは、脂質異常症を改善する新規甲状腺ホルモン (TH) 注2)の誘導体注3)ZTA-261を新たに開発しました。
甲状腺ホルモン (TH)は、甲状腺ホルモンβ受容体(THRβ)を介して脂質代謝を促進するため、高脂血症、脂肪肝などの脂質異常症の治療薬として期待されてきましたが、同時にα受容体 (THRα) を介して骨密度の低下、心拍数の異常な亢進など重篤な副作用を起こすことが問題となっていました。
今回研究グループは、THRβに選択的に結合するTH誘導体ZTA-261を開発することに成功しました。またZTA-261を投与することによって、高脂肪食で飼育した肥満モデルマウスの肝臓および血中脂質が低下することが分かりました。さらにZTA-261は、天然の甲状腺ホルモンT3や既存のTH誘導体GC-1と比較して、肝機能障害、心肥大、骨密度の低下などの副作用が大幅に軽減されました。
本化合物は脂質異常症の新たな治療薬として、今後の展開が期待されます。
本研究成果は、2024年8月6日18時(日本時間)付イギリス医学雑誌「Communications Medicine」に掲載されます。
・甲状腺ホルモン受容体β(THRβ) 注1)に選択的に結合する新規化合物ZTA-261を開発した。
・マウスへのZTA-261の投与により肝臓および血中の脂質が低下した。
・ZTA-261の肝臓、心臓、骨に対する副作用は既存の化合物と比べて大幅に軽減した。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)甲状腺ホルモン受容体β (THRβ):
核内受容体スーパーファミリーに属するタンパク質で、THが結合すると、様々な遺伝子の転写を促進する。THRβのほかに、THRαの2種類が存在する。
注2)甲状腺ホルモン (TH):
甲状腺から分泌され、主に細胞の代謝を高めるホルモン。高活性のトリヨードサイロニン (T3)、低活性のサイロキシン (T4)の2種類の分子が存在する。甲状腺ホルモン受容体を介して作用する。
注3)誘導体:
ある化合物の構造を、化学反応により部分的に変化させた化合物。
雑誌名:Communications Medicine
論文タイトル:Synthesis and preclinical testing of a selective beta-subtype agonist of thyroid hormone receptor ZTA-261
著者:南保正和*, 大川(西脇)妙子*, 伊藤彰啓†, Zachery T. Ariki*, 伊藤有花†, 加藤優季†, Muhammad Yar*, Jacky C.-H. Yim*, Emily Kim‡, Elizabeth Sharkey‡, 加納圭子*, 三城(佐藤)恵美*, 沖村光祐†, 丸山迪代†, 太田航†, 古川祐子*, 中山友哉*, 小林美里*, 堀尾文彦*, 佐藤綾人*, Cathleen M. Crudden*, 吉村崇* (*本学教職員, †本学大学院生, 本学‡特別研究学生)
DOI: 10.1038/s43856-024-00574-z
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院理学研究科 南保 正和 特任准教授
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/en/
大学院生命農学研究科/トランスフォーマティブ生命分子研究所 大川 妙子 准教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~aphysiol/
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/en/
トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院理学研究科 佐藤 綾人 特任准教授
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トランスフォーマティブ生命分子研究所/Queen' s University, Canada Cathleen M. Crudden 主任研究者/客員教授
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トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院生命農学研究科 吉村 崇 教授
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https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~aphysiol/