名古屋大学大学院工学研究科の木村 康裕 助教、崔 羿(スイ イ) 助教、徳 悠葵 准教授、巨 陽(ジュ ヤン) 教授(研究当時。現:中国浙江大学)らの研究グループは、薄膜内極細結晶粒を制御することによる金属原子の大量輸送の原理を発見し、原子拡散を活用したアルミニウムナノワイヤの大量森状成長手法を開発しました。
ウィスカとも呼ばれる1次元ナノ材料の一種である純金属ナノワイヤは、人髪の1000分の1ほどの小さな直径と数百マイクロメートルほどの長さを持つナノテクノロジーにおいて有望な材料の一つです。特に基板に自立成長した欠陥の少ない単結晶注4)純金属ナノワイヤは、次世代センシングデバイスとしてのガスセンサやバイオマーカー、次世代オプトエレクトロニクスとしてのプラズモン導波路への応用など、広範囲なマイクロ・ナノデバイスの構成材料として注目されており、その量産法の確立が急務となっています。しかし、大量合成法が報告されている半導体、有機材料、金属酸化物ナノワイヤと異なり、原子の自己組織化で純金属ナノワイヤを大量に作り上げる技術が存在しませんでした。本研究では、イオンビーム照射という簡便な方法で金属薄膜の結晶粒分布を制御し、原子輸送のための特異な応力注5)場を与えることにより、狙った場所に純金属ナノワイヤを成長させる技術開発に成功しました。この成果は、これまで偶発的で少量にしか成長させられなかったボトムアップ的金属ナノワイヤ成長法の道を拓くものであり、有機材料のカーボンナノチューブや半導体ナノワイヤに続く、金属の原子スケールモノづくり技術の出発点になることが期待されます。
本研究成果は、2024年8月9日(日本時間午前4時)付アメリカ科学振興協会の学術雑誌「Science」に掲載されます。
・固体中で原子を運ぶ原子拡散注1)現象を利用した森状金属ナノワイヤ注2)の大量成長を実現。
・基板上に薄膜を堆積、イオンビーム照射、加熱という3プロセスのみで、狙った場所に大量の金属ナノワイヤを垂直に成長。
・イオンビーム照射が薄膜内における結晶粒注3)径の勾配を与え、結晶粒制御が原子拡散のための巨大な駆動力の引き金になり得ることを電子顕微鏡観察ならびに数値計算によって解明。
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注1)原子拡散:
固体中の原子輸送現象であり、原子濃度勾配、静水圧応力勾配、温度勾配、電位勾配などが駆動力となる。
注2)ナノワイヤ:
人髪の直径の1000分の1程度の直径(直径100~600 ナノメートル程度)を有した1次元の線状ナノ構造体。
注3)結晶粒:
原子が規則的に並んでいる固体の塊のことで、本成果では数ナノメートルから数十ナノメートルの極細粒を扱っている。
注4)単結晶:
物体の中の原子配列の向きが同じである固体を指す。
注5)応力:
物体内部に働く仮想的な面に対する単位面積あたりの力。
雑誌名:Science
論文タイトル:Growth of metal nanowire forests controlled through stress fields induced by grain gradients
著者:*木村 康裕(名古屋大学・助教)、崔 羿(名古屋大学・助教)、鈴木 崇真(名古屋大学・卒業生)、田中 悠貴(名古屋大学・卒業生)、田中 貴章(名古屋大学・卒業生)、徳 悠葵(名古屋大学・准教授)、*巨 陽(研究当時:名古屋大学・教授、現:浙江大学・主任教授)
DOI:10.1126/science.adn9181
大学院工学研究科 木村 康裕 助教、巨 陽
https://www.mech.nagoya-u.ac.jp/ju/index.html
インタビュー記事:「金属ナノワイヤ、イオンビームより原理を極めたい(名大研究フロントライン)