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工学

2024.11.21

波として伝わる磁気振動の回転方向の制御と検出に成功 ―磁気の波の新たな自由度を開拓―

京都大学化学研究所の塩田陽一 准教授、小野輝男 同教授らの研究グループは、産業技術総合研究所(以下、産総研という)新原理コンピューティング研究センターの谷口知大 研究チーム長、名古屋大学大学院工学研究科の森山貴広 教授と共同で、二つの磁石の磁極が逆方向に結合した人工反強磁性体注1)において、波として伝わる磁気振動(マグノン注2))の回転方向を励起マイクロ波の周波数で制御し、その回転方向を電気的に読み取ることに成功しました。
反強磁性体のマグノンは、右回りと左回りの二つの異なる回転モードが存在するため、マグノンに回転極性注3)という新たな自由度を付加することが可能です。しかし、通常の反強磁性体の磁極は外場による制御が困難なことから、異なる回転極性を有するマグノンの生成・伝送・検出を一つのデバイスで実証した例はこれまでありませんでした。
本研究では、上下を白金(Pt)で挟んだ垂直磁化の人工反強磁性体を用いることで、励起マイクロ波の周波数によって選択的にマグノンの回転方向を制御し、伝搬したマグノンの回転方向をスピン流-電流変換現象を介して電気的に検出することに成功しました。この成果は、マグノンを利用したスピンデバイスに回転極性という新たな自由度を提供することになり、スピントロニクス注4)研究分野の発展に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年11月20日に国際学術誌「Nature Communications 」にオンライン掲載されます。

 

【ポイント】

● 人工反強磁性体において、磁気の波であるマグノンの回転方向をマイクロ波の励起周波数によって選択的に励起し、伝播させることに成功
● スピントロニクス技術であるスピン流-電流変換現象を利用して、伝播マグノンの回転方向の直接観測に成功
● 本研究によって、マグノンの回転極性という新たな自由度を生かしたスピンデバイスへの応用に期待

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1 人工反強磁性体非磁性層を介して二つの磁性層の磁極が逆方向に結合した人工的な構造を持つ反強磁性体。非磁性層の膜厚に依存して、平行または反平行に結合させることができ、本研究では反平行に結合させるようにルテニウムの膜厚を設定した。
注2 マグノンスピン(微小な磁石)の歳差運動が空間的にずれて波のように伝わっていく現象(スピン波)を量子力学的に取り扱ったもの。
注3 回転極性回転運動に対する極性のこと。共線型の反強磁性体では、異なる二つの磁極の回転方向がともに右回りまたは左回りに回転する共鳴モードが存在する。
注4 スピントロニクス電子が持つ電気的な性質(電荷)と磁気的な性質(スピン)を組み合わせて、既存のエレクトロニクスにない高性能・高機能なデバイスの実現を目指す研究分野。代表例として、ハードディスクの読み取りヘッド、不揮発性磁気メモリ MRAM、磁気センサーなどに用いられるトンネル磁気抵抗素子が挙げられる。

 

【論文情報】

タイトル:Handedness manipulation of propagating antiferromagnetic magnons(伝播する反強磁性マグノンの回転極性制御)
著  者:Yoichi Shiota, Tomohiro Taniguchi, Daiju Hayashi, Hideki Narita, Shutaro Karube, Ryusuke Hisatomi, Takahiro Moriyama and Teruo Ono
掲 載 誌:Nature Communications  DOI: 10.1038/s41467-024-54125-0

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 森山 貴広 教授
https://spintronics.mp.pse.nagoya-u.ac.jp/