名古屋大学大学院生命農学研究科の馬 特(マ トク) 助教、稲垣 哲也 准教授、土川 覚 教授、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業機械研究部門 関 隼人 研究員の研究グループは、①可視-近赤外分光法注6)および近赤外分光法により、成熟しても果皮の白いイチゴ(白イチゴ)の糖度を良好な精度で推定することを可能にしました。白イチゴの可視-近赤外領域のスペクトルでは、赤いイチゴと同様に、アントシアニン注7)とクロロフィル注8)に由来する吸収が観察されました。これらの結果は、イチゴの選別や、現場での熟度判定を効率化するシステムの開発に貢献します。
本研究ではさらに、②近赤外ハイパースペクトラルイメージング法により、白イチゴの糖度分布の可視化を試みました。測定して得られた果実表面のデータから、そう果注9)を自動識別する機械学習と画像処理を組み合わせたアルゴリズムを開発し、より正確な果実表面の糖度分布を可視化できるようになりました。
本研究により、果皮の色に関係なく糖度の推定と糖度分布の可視化ができるようになりました。今後、ニーズに応じた品質を担保しつつ高付加価値化に貢献するイチゴの新たな選別技術や熟度判定技術の開発が進むことが期待されます。また、実用化が進むことで、日本産イチゴの輸出拡大戦略のための技術構築が期待されます。
本研究成果は、2024年7月19日付foods誌『??Evaluating Soluble Solids in White Strawberries: A Comparative Analysis of Vis-NIR and NIR Spectroscopy』他に掲載されました。
・果皮の白いイチゴは成熟しても赤く着色しないため熟度判定が難しく、高品質な商品を市場に供給するために、非破壊で糖度注1)などの品質を推定する技術が必要。
・可視光注2)と近赤外光注3)を使った分光技術で、白イチゴの糖度を良好な精度で推定。
・近赤外ハイパースペクトラルイメージング法注4)により、白イチゴの糖度分布を可視化。
・機械学習と画像処理による、イチゴのハイパースペクトルデータ注5)の前処理アルゴリズムを開発。
・ニーズに応じた品質を担保し、高付加価値化につながる新たな選別技術や熟度判定技術の開発に寄与。
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注1)糖度:
一般的に表示される糖度は、屈折糖度計で測定したBrix値である。屈折糖度計は糖、有機酸、遊離アミノ酸などの可溶性固形物量を測定するものである。イチゴでは、糖度と糖含量の間に相関があるために簡便な測定法として用いられる。
注2)可視光:
波長が約380ナノメートル(nm)から 800 nmまでの目に見える光のこと指す。
注3)近赤外光:
波長が約750nmから2500 nmまでの長さの目に見えない光のことを指す。赤外線光より波長が短いため、"近"赤外光と呼ばれている。
注4)近赤外ハイパースペクトラルイメージング法:
近赤外分光法を空間的に拡張した手法である。対象物の成分のばらつき(分布)を画像として可視化する。
注5)ハイパースペクトラルデータ:
通常のRGB画像は各画素に3つの情報を持つが、ハイパースペクトラルデータでは、各画素にスペクトル情報を持つ。
注6)(可視-近赤外、近赤外)分光法:
物質の工学的特性や組成を解析するための科学的な手法である。さまざまな波長や周波数にわたるスペクトルデータから、情報を分析・抽出し、定性・定量分析を行う。
注7)アントシアニン:
果物などに含まれる色素である。アントシアニンを多く含む果物は赤色や紫色に見える。
注8)クロロフィル:
果物や葉に含まれる緑色の色素である。未熟な果物には、クロロフィルが多く含まれる。
注9)そう果:
イチゴ果実表面に存在する種子のようなもの。植物形態的には果実であり、可食部は花托(かたく)が肥大した偽果である。
雑誌名:foods
論文タイトル:Evaluating Soluble Solids in White Strawberries: A Comparative Analysis of Vis-NIR and NIR Spectroscopy
著者:Seki H, Murakami H, Ma T, Tsuchikawa S, Inagaki T.
DOI: 10.3390/foods13142274
URL: https://doi.org/10.3390/foods13142274
論文タイトル:Visualization of Sugar Content Distribution of White Strawberry by Near-Infrared Hyperspectral Imaging
著者:Seki H, Ma T, Murakami H, Tsuchikawa S, Inagaki T.
DOI: 10.3390/foods12050931
URL: https://doi.org/10.3390/foods12050931
大学院生命農学研究所 土川 覚 教授、稲垣 哲也 准教授
http://nu-agr-se.flier.jp