TOP   >   医歯薬学   >   記事詳細

医歯薬学

2024.11.19

尿中エクソソームのマイクロRNA解析による早期がん検知 -採血を必要としないがんの検知技術への応用に期待-

東京科学大学(Science Tokyo)* 生命理工学院 生命理工学系の安井隆雄教授らの研究チームは、名古屋大学 未来社会創造機構の夏目敦至特任教授、東京大学 大学院工学系研究科の柳田剛教授、北海道大学 電子科学研究所の長島一樹教授、関西大学 商学部の鷲尾隆教授、Craif株式会社の市川裕樹CTO、東京医科大学 医学総合研究所の落谷孝広特任教授、大阪大学 産業科学研究所の川合知二招へい教授、量子科学技術研究開発機構(QST)量子生命科学研究所の馬場嘉信教授と共同で、尿中エクソソーム(用語1)マイクロRNA(用語2)を用いた早期がん検知を達成しました。
エクソソームは、全ての細胞が放出する微粒子(直径40-200 nm程度)であり、細胞と細胞がコミュニケーションする時の情報伝達物質として体内で機能しています。マイクロRNAはエクソソームによって運ばれる情報であり、がん細胞が放出するエクソソームに含まれるマイクロRNAは体内のがんに関連するサインであると考えられます。今回の研究では、“血液中のエクソソームは全てが細胞間のコミュニケーションに用いられずに一部が尿中へ排出される”という仮説を立て、尿中のエクソソームのマイクロRNA解析を実施しました。
尿中エクソソームのマイクロRNAを機械学習解析したところ、早期がん患者を識別できることが分かりました。尿中のエクソソームを網羅的に捕まえるため、今回は1次元ナノ構造体のナノワイヤ(用語3)を用いました。次に、捕まえた尿中エクソソームからマイクロRNAを取り出し、がんマーカーとなるようなマイクロRNAの組み合わせ(マイクロRNAアンサンブル用語4)を機械学習解析にて構築したところ、がん患者と非がん患者ではマイクロRNAアンサンブルが異なることを発見しました(感度98.2 %、特異度96.5 %)(用語5)。さらに、がん患者のマイクロRNAアンサンブルを用いると、AUROC(用語6)が0.987で早期がん患者を識別できました。
本成果は、10月18日付(現地時間)の「Analytical Chemistry 」誌にオンライン掲載されました。

 

*2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。

 

【ポイント】

○尿中のエクソソームのマイクロRNAを機械学習解析し、早期がん検知を達成
○ナノワイヤを用いて尿中に約2,000種以上のマイクロRNAが存在することを確認
○脳腫瘍、肺がん、非がんの3分類が可能

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(1) エクソソーム:全ての細胞が放出する微粒子(直径40-200 nm程度)であり、細胞と細胞がコミュニケーションする時の情報伝達物質として体内で機能する物質。
(2) マイクロRNA:2024年のノーベル生理学・医学賞の受賞につながった物質。マイクロRNAはたんぱく質を作らないRNAであるが、細胞や生体を制御していることが明らかとなっている。がん細胞が放出するエクソソームに含まれるマイクロRNAは体内のがんに関連するサインであると考えられている。
(3) ナノワイヤ:1次元のナノ構造体。直径が数10-100 nm、長さが1-10 ?mのナノメートルスケールのハリやワイヤーのような構造体。
(4) マイクロRNAアンサンブル:がんに関連する生命現象には複雑な生物学的プロセスが含まれているため、各種のがん生命現象に関連するマイクロRNAは、1種ではなく複数種のマイクロRNAが組み合わされ、マイクロRNAの組み合わせ(マイクロRNAアンサンブル)となる。
(5) 感度と特異度:感度は疾患を持った人のうちその所見がある人の割合を示し、特異度は疾患を持たない人のうちその所見がない人の割合を示す。感度の計算式は、(真陽性)/(真陽性+偽陰性)となる。また、特異度の計算式は、(真陰性)/(偽陽性+真陰性)となる。
(6) AUROC:Area Under the Receiver Operating Characteristics Curveの略称。機械学習におけるAUROCとは、主に二値分類に対する評価指標の一つとなる。AUROCは邦訳すると、「ROC(受信者操作特性)曲線の下の面積」を意味する。この指標は、1.0に近いほどモデルの予測性能が高いことを示す。例えば機械学習モデルによる予測が全て正解であった場合、AUROC値は1.0となる。また、AUROC値が0.5の場合は、機械学習モデルによる予測がランダムな推測と同等であることを示す。

 

【論文情報】

掲載誌:Analytical Chemistry
論文タイトル:Early cancer detection via multi-microRNA profiling of urinary exosomes captured by nanowires
著者:Yasui, Takao; Natsume, Atsushi; Yanagida, Takeshi; Nagashima, Kazuki; Washio, Takashi; Ichikawa, Yuki; Chattrairat, Kunanon; Naganawa, Tsuyoshi; Iida, Mikiko; Kitano, Yotaro; Aoki, Kosuke; Mizunuma, Mika; Shimada, Taisuke; Takayama, Kazuya; Ochiya, Takahiro; Kawai, Tomoji; Baba, Yoshinobu
DOI:10.1021/acs.analchem.4c02488

 

【研究代表者】

未来社会創造機構 夏目 敦至 特任教授
https://www.mirai.nagoya-u.ac.jp/