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化学

2025.02.28

太陽光と水で医薬品材料とグリーン水素を生成 ~「人工光合成」による新たな有機物生産法の幕開け~

名古屋大学学際統合物質科学研究機構(IRCCS)の森 彰吾 助教、斎藤 進 教授らの研究グループは、信州大学先鋭材料研究所(RISM)の久富 隆史 教授、同研究所の堂免 一成 特別特任教授(兼東京大学特別教授)と共同で、太陽光と水を活用して、医薬品の材料を含む有用な有機化合物と次世代の再生可能エネルギーとして注目されるグリーン水素の人工光合成に世界で初めて成功しました。
人工光合成とは、自然界のエネルギー循環を支える植物の天然光合成を模倣した非天然の化学反応であり、化石資源の枯渇などの環境・エネルギー問題の解決に貢献する科学技術として注目されています。これまで、無機化合物注2)を反応原料として用いる人工光合成が盛んに研究されてきました。
本研究では有機物と水を反応原料として用いて、医薬品の材料などの有用な有機化合物と次世代の再生可能エネルギーでもあるグリーン水素の人工光合成に成功しました。成功の鍵は汚染有機物の分解や水の分解(水分解)を促す2種類の無機半導体光触媒の相乗効果・協働作用です。本研究は有機合成を指向した人工光合成という新しい分野の幕開けであり、本研究成果が太陽光や水など再生可能なエネルギーや資源を活用する持続可能な医農薬生産に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2025年2月27日19時(日本時間)付で英国科学誌『Nature Communications』に掲載されます。

 

【ポイント】

・有機物を原料とする有機合成のための人工光合成注1)という新しい分野を開拓した。
・太陽光と水を活用して、医薬品の材料などの有用な有機化合物注2)の合成と、次世代の再生可能エネルギーでもあるグリーン水素注3)の生産を同時に実現した。
・汚染有機物の分解や水の分解注4)を促す2種類の無機半導体光触媒注5)の相乗効果・協働作用によって「分解」ではなく、その逆の「合成」への転換を達成した。
・持続可能なエネルギーと資源を利用した医農薬生産への貢献が期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) 有機合成のための人工光合成:
有機物を原料とし、高付加価値の有機化合物を合成するための人工光合成。2022年に斎藤らにより定義された(Coordination Chemistry Reviews 2022, 472, 214773.)。なお、人工光合成は以下の3条件を満たす非天然の光合成であると井上晴夫氏(東京都立大学名誉教授)により説明されている(Electrochemistry 2014, 82, 475.)。①太陽光により促されること。②水が電子源かつ反応原料の一つとして機能すること(水の酸化を経ること、および水が生成物の一部を構成することと換言できる)。③エネルギー貯蔵型であること(反応原料がもつ化学エネルギーの総和よりも反応生成物がもつ化学エネルギーの総和の方が大きいこと、あるいは反応のギブス自由エネルギー変化が正であることと換言できる)。人工光合成では太陽光エネルギーが化学エネルギーとして貯蔵される。

注2) 有機(化合)物と無機(化合)物:
燃焼により二酸化炭素と水の両方を生成する化学物質は有機(化合)物に分類され、そうでない化学物質は無機(化合)物に分類される。

注3) グリーン水素:
太陽光エネルギーなどの再生可能エネルギーの活用により二酸化炭素の排出を伴わずに合成される水素。

注4) 水の分解(水分解):
二分子の水が二分子の水素と一分子の酸素に分解される反応(2H2O→2H2 + O2)。
注5) 無機半導体光触媒:
光エネルギーを吸収し酸化還元反応を促す無機化合物。溶媒に溶解せずに固体のまま機能するため、不均一系触媒に分類される。

 

【論文情報】

雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Artificial photosynthesis directed toward organic synthesis(有機合成を指向した人工光合成)
著者:森 彰吾(名古屋大学助教)、橋本陸(当時 名古屋大学大学院生)、久富 隆史(信州大学教授)、堂免 一成(信州大学特別特任教授、東京大学特別教授)斎藤 進*(*責任著者、名古屋大学教授)
DOI: 10.1038/s41467-025-56374-z
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-025-56374-z

 

【研究代表者】

学際統合物質科学研究機構(IRCCS)/大学院理学研究科 斎藤 進 教授, 主著者:森 彰吾 助教
https://noy.chem.nagoya-u.ac.jp/noy_j/index.html