名古屋大学大学院生命農学研究科の小田 裕昭 准教授らを中心とする研究グループは、砂糖注1)の摂り過ぎによって起こるメタボリックシンドローム注2)へつながる脂質代謝異常(脂肪肝注3)、高中性脂肪血症注4))の原因となっている腸内細菌注5)を5つ見つけました。
これまでメタボリックシンドロームは、食べ過ぎ、特に油の摂り過ぎが原因として考えられてきましたが、最近になって、砂糖や異性化糖注6)などの果糖(フルクトース)注7)を含む糖が大きな原因であると分かってきました。しかし、砂糖の摂り過ぎによる脂質代謝異常のメカニズムは十分に分かっておらず、具体的な対策を取ることができませんでした。教科書にはいまだに半世紀前に考えられたメカニズム(旧メカニズム)が書かれており、研究グループはこれが間違いであることを見つけ、新メカニズムとして、腸内細菌叢の関与を明らかにしました(2021.3.26プレスリリース)。
本研究では、砂糖の摂り過ぎによって脂質代謝異常を引き起こす大腸の腸内細菌を特定するために、4つの抗生物質の混合物とそれぞれの抗生物質をラットに与えました。抗生物質の混合物か、抗生物質であるメトロニダゾールを与えたときに脂質代謝異常が抑制されました。次にメトロニダゾールと作用が類似する抗生物質オルニダゾール、チニダゾールを与えて比較したところ、メトロニダゾールだけに効果が見られました。そこで、変化した腸内細菌を絞り込んでいったところ、5つの原因菌を特定しました。これらの腸内細菌を標的にすることで、砂糖の摂り過ぎによる脂質代謝異常やメタボリックシンドロームを予防できる可能性があります。
本研究成果は、砂糖の摂り過ぎによるメタボリックシンドロームが、腸内環境を整える方法により予防できることを示すとともに、他の食品成分によって予防できる可能性を示すものです。
本研究成果は、2024年12月、オランダ科学雑誌「Food Bioscience」に掲載されました。
・砂糖の摂り過ぎによる脂質代謝異常が、腸内細菌叢の変化であることを明らかにした。
・砂糖の摂り過ぎによる脂質代謝異常は、5つの腸内細菌が原因であることが分かった。
・砂糖の摂り過ぎによる脂質代謝異常やメタボリックシンドロームの予防は腸内環境の改善であることが分かった。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)砂糖:
砂糖はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)が結合した二糖類。甘味料一般を指すものではない。
注2)メタボリックシンドローム:
生活習慣病の前段階の未病状態であり、インスリン抵抗性を基盤とした状態を指す。食事や運動に気を使うことによって、可逆的に戻ることが期待される状態である。一般に太っていることを指す言葉のように使われることがあるが、必ずしも正しくない。日本人の場合、太っていない人でもインスリン抵抗性がありメタボリックシンドロームと評価される場合がある。そのような人は、痩せていても糖尿病になることがある。
注3)脂肪肝:
肝臓に中性脂肪がたまっている状態を指す。脂肪肝が進行すると、肝線維症や肝硬変、肝がんへ移行する可能性がある。アルコール摂取しない場合、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)と呼ばれ、その原因はメタボリックシンドロームと関連が深いと考えられている。
注4)高中性脂肪血症:
血中に中性脂肪がたまる高脂血症の一つで、これまでは高コレステロール血症が動脈硬化症の危険因子と考えられてきたが、最近、高中性脂肪血症も危険因子と考えられるようになった。
注5)腸内細菌:
私達の消化管には多くの微生物が住んでいる。その中でも大腸には大量の細菌が住んでおり、腸内細菌が代謝や健康に大きな影響を与えていることが分かってきた。
注6)異性化糖:
果糖ブトウ糖液糖とも呼ばれる。デンプンを加水分解してブドウ糖液に変え、およそ半分を果糖に異性化したものであり、スクロースと同様な甘味があり、安価で供給されているため、ジュースなどの甘味料として多く利用されている。
注7)フルクトース:
グルコースと同じ組成式をもつため、自身のエネルギーは同じであるが、グルコースと代謝が異なるため、メタボリックシンドロームや脂肪肝、高中性脂肪血症、高尿酸血症、肥満などを引き起こすことが知られている。本文にもあるように、従来のメカニズムではこの現象を説明できなかった。
雑誌名:Food Bioscience
論文タイトル:High-sucrose diet induces abnormalities in lipid metabolism through gut microbiome dysbiosis linked to five metronidazole-suppressed bacteria
著者: Qi Song, Shiori Saito, Yuki Araki, Miki Umeki, Naomichi Nishimura, Satoshi Mochizuki, Hiroaki Oda 下線は名古屋大学
DOI: 10.1016/j.fbio.2024.105160
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212429224015906
大学院生命農学研究科 小田 裕昭 准教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~nutr/oda/oda.html