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生物学

2025.04.01

植物が季節に応じて開花と花茎伸長を促進させるメカニズムを解明 ~作物収量向上などの応用に期待~

名古屋大学遺伝子実験施設の高木 紘 研究員(現 名古屋大学生物機能開発利用研究センター 特任助教(高等研究院YLC教員))、今泉 貴登 客員教授(兼 ワシントン大学教授)らの研究グループは、同大学生物機能開発利用研究センターの野田口 理孝 特任教授(兼 京都大学 教授)、遺伝子実験施設の打田 直行 教授、多田 安臣 教授、トランスフォーマティブ生命分子研究所の栗原 大輔 特任准教授、佐藤 良勝 特任准教授らの研究グループと共同で、植物が適切なタイミングで花を咲かせ、それに合わせて花茎を伸ばす新規の機構を発見しました。
植物は常に季節の変化を感じながら、受粉そして結実に最適なタイミングで花を咲かせ、また開花に伴い茎を伸ばします。これは次世代を残す上で欠かせない役割を果たしていますが、これまで野外で生育する植物が、適切な時期に開花と茎伸長を同調して促進させるメカニズムは不明でした。
本研究チームは、季節変化の認識に重要な役割を果たすことが知られている篩部伴細胞注2)に着目し、同細胞における特有の遺伝子発現パターンを解析しました。その結果、開花が促進される長い日照条件によって、葉の篩部伴細胞でFPF1-LIKE PROTEIN 1 (FLP1 )という機能未知の遺伝子が強く発現することが分かりました。さらなる詳細な解析から、葉で発現したFLP1タンパク質が篩管注3)を通って茎の先端部(茎頂)注4)に移動し、開花と花茎伸長の両方を促進していることが示されました。つまり植物は葉で感知した季節情報を、FLP1を介して茎頂に伝え、花芽の形成と茎の伸長を同時に促す巧みな機構を持っていることが明らかになったのです。
開花の時期と茎伸長の同調性は、農業生産性に大きく影響する形質であり、今後は本研究の知見が優良な作物品種の開発に応用されることが期待されます。
本研究成果は、2025年2月28日付米国科学雑誌『Developmental Cell』に掲載されました。

 

【ポイント】

・多くの植物種は季節を感じなから適切なタイミングで開花と花茎注1)伸長を同時に促進させるが、季節応答から開花と茎伸長を連動させるメカニズムは不明であった。
・植物が季節の変化に合わせてFLP1という移動性のタンパク質を葉で発現させ、花芽形成と茎伸長の両方を促進させていることを明らかにした。
・開花に伴った花茎の伸長は、農業収量に多大な影響を与える形質であることから、今後は優良形質作物の作出に応用されることが期待される。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 
【用語説明】

注1) 花茎:
花を高い位置に持ち上げて支える茎。
注2) 篩部伴細胞(しぶはんさいぼう):
光合成産物などを輸送する篩管の周辺に存在する細胞質に富んだ細胞。篩部伴細胞は光合成で産生されるショ糖や他の成長に必要な低分子の篩管の積み込みを行う。一部の篩部伴細胞はFTを産生し、季節応答に関与している。
注3) 篩管(しかん):
ゴルジ体、液胞、核を失った篩部要素と呼ばれる特殊な細胞が連なり、管状構造を形成する組織。ショ糖や他の成長に必要な低分子の輸送を担っている。
注4) 茎頂:
茎の先端部で細胞分裂が活発な組織。新しい葉や花はここで作られる。

 

【論文情報】

雑誌名:Developmental Cell
論文タイトル:Florigen-producing cells express FPF1-LIKE PROTEIN 1 to accelerate flowering and stem growth in Arabidopsis
著者:*高木 紘、Nayoung Lee、Andrew K. Hempton、Savita Purushwani、*野田口理孝、山内孝太、白井一正、*川勝弥一、*上原晋、William G. Albers、Benjamin L.R. Downing、伊藤照悟、鈴木孝征、松浦恭和、森泉、光田展隆、*栗原大輔、松下智直、Young Hun Song、*佐藤良勝、*野元美佳、*打田直行、*多田安臣、花田耕介、Josh T. Cuperus、Christine Queitsch、*今泉 貴登    (*本学関係者) 
DOI:10.1016/j.devcel.2025.02.003
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1534580725000656                                

 

【研究代表者】

高等研究院/生物機能開発利用センター 高木 紘 特任助教,主著者:今泉 貴登 客員教授
https://www.bio.nagoya-u.ac.jp/research/#anchor-research_gene