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生物学

2025.04.08

植物の種子形成に不可欠な「へその緒」新組織を発見 ~種子形成科学の新領域、また新規の種子肥大育種法を開拓~

名古屋大学生物機能開発利用研究センターの笠原 竜四郎 特任准教授、野田口 理孝 特任教授、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)の研究グループは、植物の種子形成に不可欠な「へその緒」新組織(笠原ゲートウェイ)を新たに発見しました
研究者らは、植物の胚珠(受精して種子になる部分)にある新組織を発見しました。植物の新組織の発見は実に160年ぶりとなります。この組織は受精前にカロース注2)という糊のような細胞膜上の物質を蓄積させて胚珠と、珠柄(胚珠と雌しべの中心をつなぐ柄)の間の物質輸送を塞いでいます。しかし一旦受精すると、胚珠は受精を感知しAtBG_ppapタンパク質を用いてカロースを溶かし、物質の流通を可能にし、母体側の栄養を胚珠側に運んで種子を肥大させますが(開門状態)、もし受精に失敗すると胚珠が受精を感知しないため、カロースが溶かされることなくさらに蓄積し、栄養が胚珠に流入しないため(閉門状態)、種子の壊死が起こることも分かりました。さらに、AtBG_ppapを過剰発現した胚珠は常に開門状態であり、野生型よりも多くの栄養を受け入れることができるため、この方法によってシロイヌナズナとイネの種子を肥大させることができることも分かりました。本研究は新組織の発見を基軸として今後の植物種子形成科学への基礎研究の発展だけでなく、種子肥大育種に大きく貢献していくことが約束されています。
本研究成果は、2025年4月8日午前3時(日本時間)付米国科学誌『Current Biology 』電子版に掲載されます。

 

【ポイント】

・植物の新組織「笠原ゲートウェイ」による全く新しい種子栄養供給システムの発見。
・その「門」は受精すると開いて栄養を受け入れ、受精に失敗すると閉じて栄養を阻む。
・AtBG_ppapタンパク質を胚珠注1)に用いることで種子肥大育種法を新たに開発。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)胚珠: 
被子植物の雌しべ内部にある受精して種子になる部分。シロイヌナズナの場合、雌しべの中には50?60個、イネの場合1個の胚珠がある。
注2)カロース:
さまざまな植物の発生・生育過程において、細胞壁と細胞膜の間に一時的に沈着し、重要な生理機能を担う。

 

【論文情報】

雑誌名:Current Biology
論文タイトル:Fertilization-dependent phloem end gate regulates seed size
著者:Xiaoyan Liu, Kohdai P. Nakajima, Prakash Babu Adhikari, Xiaoyan Wu, Shaowei Zhu, Kentaro Okada, Tomoko Kagenishi, Ken-ichi Kurotani, Takashi Ishida, Masayoshi Nakamura, Yoshikatsu Sato, Yaichi Kawakatsu, Liyang Xie, Chen Huang, Jiale He, Ken Yokawa, Shinichiro Sawa, Tetsuya Higashiyama, Kent J. Bradford, Michitaka Notaguchi, Ryushiro D. Kasahara. (赤字は名大生物機能開発利用研究センター、青字は名大ITbM)     
DOI:10.1016/j.cub.2025.03.033

URL:https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.03.033

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

生物機能開発利用研究センター 笠原 竜四郎 特任准教授
http://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~graft/member.html