植物は、体表に存在する気孔と呼ばれる孔(あな)を通して、大気と二酸化炭素や水分のやり取りを行います。気孔は環境刺激に応答して開閉することが知られており、その開閉のメカニズムの理解を活かした人為的な気孔開度の調節は、植物の成長促進や乾燥耐性の強化に重要です。
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM※)および名古屋大学大学院理学研究科の王 愛里 研究当時 博士前期課程学生、木村 陸 研究当時 博士前期課程学生、井上 心平 研究当時 博士前期課程学生、佐藤 太洋 研究当時 博士前期課程学生、林 優紀 助教、佐藤 綾人 特任准教授、高橋 洋平 特任准教授、木下 俊則 教授らの研究グループは、新たに気孔開口を引き起こす化合物としてPP242を同定し、PP242が気孔閉鎖を誘導する植物ホルモン・アブシジン酸(ABA)の作用を抑制することを明らかにしました。
本研究は、植物の光合成や収量の向上につながる可能性があり、農業分野への貢献が期待されます。本研究成果は、2025年 1月31日に日本植物生理学会「Plant & Cell Physiology」のオンライン版に掲載されました。
・植物の表皮に存在する気孔は、植物と大気間のガス交換を行う。
・本グループでは、新たに気孔を開かせる化合物として、PP242を発見した。
・PP242は気孔において、気孔閉鎖を引き起こす植物ホルモン・アブシジン酸(ABA)注1)の作用を強く抑制した。
・PP242はABA初期シグナル伝達を抑制し、直接の標的としてB3 clade Raf-like kinasesを阻害することを明らかにした。
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注1)アブシジン酸:
植物ホルモンの一種。乾燥ストレス時の植物生理応答を中心的に担い、種子休眠や気孔閉鎖といった乾燥ストレス応答の生理反応を誘導する。
雑誌名:Plant & Cell Physiology
論文タイトル:Identification of a novel stomatal opening chemical, PP242, that inhibits early abscisic acid signal transduction in guard cells. (孔辺細胞において初期ABAシグナル伝達を抑制する、新規気孔開口化合物PP242の同定)
著者:Airi Oh, Riku Kimura, Shinpei Inoue, Taiyo Sato, Yuki Hayashi, Ayato Sato, Yohei Takahashi, Toshinori Kinoshita (王愛里, 木村陸, 井上心平, 佐藤太洋, *林優紀, *佐藤綾人, *高橋洋平、*木下俊則)(全て本学関係者、*名古屋大学教員)
DOI: /10.1093/pcp/pcaf013
URL: https://doi.org/10.1093/pcp/pcaf013
※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 木下 俊則 教授,主著者:王 愛里
(木下、林、高橋)
https://plantphys.bio.nagoya-u.ac.jp/index.html
(佐藤)
https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/