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数物系科学

2025.04.10

ブラックホール長年の謎"ジェット現象"の噴出条件を解明 新たな理論モデルとブラックホール観測の進展へ貢献

名古屋大学宇宙地球環境研究所の山岡 和貴 特任准教授、富山大学大学院理工学研究科の川口 俊宏 教授らの国際研究グループは、ブラックホールからほぼ光の速さで噴出するジェット現象の発生条件を明らかにしました。
宇宙のあまねく場所に存在するブラックホールは、普遍的にジェット現象を発生させ、そのメカニズムは長年の謎とされてきました。本研究はその一端である、発生の条件について観測的に解明しました。
本グループは、ブラックホールと恒星からなる連星系のX線と電波での観測データについて、時間微分量や時間積分量を用いて分析しました。その結果、ブラックホールへ流れ込むガスが形成するガス円盤において、最もブラックホールに近い位置(内縁半径)が(i)充分速くブラックホールへ向けて近付いて急激に小さくなり、(ii)安定してブラックホールの周りを回転することができる最内縁安定軌道注1)に達すること――の2つが噴出条件であると分かりました。
本研究により(1)動的な条件でジェット噴出が起きることが分かったため、静的な条件でジェット噴出する多くの理論モデルに修正が必要であることが分かりました。また、(2)ジェット噴出の予兆現象が分かったことで、噴出を捉えるための緊急好機観測の成功率が上昇すること、(3)ジェットが当分噴出しない条件も分かったことから、噴出が予想されるタイミングに観測資源を集中できること、および(4)各銀河の進化史をコントロールしてきたと考えられるジェット現象の理解を前進させることなどが期待されます。
本研究成果は、2025年4月8日付(日本時間)国際学術雑誌『Publications of the Astronomical Society of Japan』に掲載されました。

 

【ポイント】

・ブラックホール周辺からほぼ光の速さでガスが噴き出るジェット現象の発生条件を解明。
・流れ込むガスが十分速くブラックホールへ近付くことが噴出する条件。
・これまで提案されてきた多くの理論モデルは大きく見直しが必要。
・宇宙の歴史をコントロールしてきたプロセスの理解へ前進。
 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)最内縁安定軌道:
太陽の周りを回転する地球のように、一般には中心天体(この場合は太陽)からの力と遠心力が釣り合う速度が、中心天体からの距離それぞれに存在します。しかし、ブラックホールのごく近傍では、相対論的効果により両者が釣り合うことができる距離に下限値があります。最もブラックホールに近い位置で遠心力と重力が釣り合うことができる円軌道を、最内縁安定軌道と呼びます。そこよりも近い位置では、釣り合って距離を保つことができないため、ガスは速やかにブラックホールへ向けて流れ込みます。この天体の最内縁安定軌道の半径は約64kmです。

 

【論文情報】

雑誌名: Publications of the Astronomical Society of Japan
論文タイトル: X-ray Spectral and Timing Properties of the Black Hole Binary XTE J1859+226 and their Relation to Jets
著者: K. Yamaoka (名古屋大学), T. Kawaguchi (富山大学), M.L. McCollough(ハーバード-スミソニアン天体物理センター), R. Farinelli (イタリア国立天文学研究所) and S. Trushkin (カザン連邦大学) 
DOI: https://doi.org/10.1093/pasj/psae113

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 山岡 和貴 特任准教授

https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/~yamaoka/research/

富山大学大学院理工学研究科(学術研究部工学系) 川口 俊宏 教授

http://www3.u-toyama.ac.jp/kawaguti/index-j.html