名古屋大学大学院環境学研究科の殷 健杰(イン ケンケイ) 博士後期課程学生と名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の門脇 誠二 教授らの共同研究グループは、南レヴァント地方終末期旧石器時代の狩猟採集民が使用していた細石器の狩猟具としての使われ方と装着方法を明らかにしました。
本研究は、中東レヴァント地方の内陸乾燥域において終末期旧石器時代の遺跡を発掘し、収集した細石器を分析しました。手法として、細石器の形態を分類し、石器の衝撃剝離痕注4)と接着剤残滓の分布を調べました。その結果、細石器が柄の先端部分や側縁部に装着され射的具として使われたことが分かりました。また、異なる細石器の形は、射的具への装着方法の違いに関わることを示しました。そして、この推測を検証するために、石器レプリカを作成し、柄に装着して射的実験も行いました。
本研究対象のレヴァント内陸乾燥域における細石器の装着方法は、他の地域(地中海に近い湿潤域)とは異なるため、資源環境によって狩猟具デザインが異なる可能性が示されました。
本研究成果は、2025年5月17日付Springer Nature社(ドイツ・イギリス)の科学誌『Journal of Paleolithic Archaeology』にオンライン公開されました。
・中東レヴァント地方注1)の終末期旧石器時代注2)に作られた細石器注3)に対して、壊れ方や接着剤残滓の分布を調べた結果、細石器が狩猟具として使われたことが分かった。
・時期や地域によって異なる細石器の形は、射的具への装着方法の違いに関係していることを示した。
・細石器のレプリカを作成し、それを柄に装着して射的実験を実施することにより、細石器の装着方法を検証した。
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注1)中東レヴァント地方:
中近東(あるいは西アジア地域)の一部で、地中海や紅海に比較的近い地域。地中海沿岸の湿潤地帯と、内陸や南部の乾燥地帯で環境が異なる。
注2)終末期旧石器時代:
およそ300万年前からはじまる旧石器時代の終末に相当する時期。中東レヴァント地方では、2万4千年前から1万2千年前までの期間。更新世の最終氷期最盛期からその後の温暖化の時期に相当する。野生の動植物を食料とする狩猟採集を生業とする。
注3)細石器:
数cmほどの小型の石器。特に旧石器時代の終末期に世界各地で大量に用いられた。小さいため、柄に装着して使用されたと一般的に考えられている。レヴァント地方の終末期旧石器時代の場合、意図的な二次加工によって様々な形に作り分けられ、時期や地域によって特徴的な形があることが知られている。
注4)衝撃剥離痕:
石器が強い衝撃によって壊れた場合に生じる特徴的な割れ痕。石器の射的実験によって研究されており、石器の形態や装着方法によってさまざまな衝撃剥離痕がある。
雑誌名:Journal of Paleolithic Archaeology
論文タイトル:Impact Fractures and Adhesive Remains on Early and Middle Epipaleolithic Microliths from Tor Hamar, Southern Jordan
著者:Jianjie Yin(殷 健杰)1, Sate Massadeh, Seiji Kadowaki(門脇 誠二)1, 2
1名古屋大学大学院環境学研究科、2 名古屋大学博物館
DOI:https://doi.org/10.1007/s41982-025-00219-0
名古屋大学博物館/大学院環境学研究科 門脇 誠二 教授,主著者:大学院環境学研究科 殷 健杰 博士後期課程学生
https://www.num.nagoya-u.ac.jp/outline/staff/kadowaki/laboratory/index.html