・厚みがわずか0.5mmの圧電単結晶ウエハ注1)のみで形状可変ミラーを作製。
・X線ビームサイズを世界で初めて3400倍以上変化させることに成功。
・ビームサイズなどの光学パラメータを大きく変えることにより、多機能型X線分析の実現が期待される。
名古屋大学大学院工学研究科の井上 陽登 助教、松山 智至 教授(兼:大阪大学大学院工学研究科招へい教授)、理化学研究所放射光科学研究センターの矢橋 牧名 グループディレクター、香村 芳樹 チームリーダーらの研究グループは、薄い圧電単結晶ウエハ1枚のみで構成された形状可変ミラーの作製に成功しました。形状可変ミラーはさまざまな分野で活用されており、近年X線集光システムにおける光学パラメータ可変レンズ注2)として注目されています。しかし、これまでにもさまざまな形状可変ミラーが開発されてきましたが、変形量の大きさが十分ではありませんでした。その理由として、変形量を大きくするためにはミラーの厚みを可能な限り薄くする必要がありますが、従来のミラーは異種材料の接合が不可欠なため、構造的に限界がありました。そこで本研究グループは、圧電単結晶であるニオブ酸リチウム(LN)の分極反転特性注3)に着目しました。LNは約1000℃の高温で加熱されると、分極構造が一部変化します。この特性を利用すると接合することなくバイモルフ構造注4)を形成できるため、ミラーの厚みを極限まで薄くすることが可能となります。実際に、厚みが僅か0.5mmのミラーを開発し、その形状を制御することで、X線ビームサイズを3400倍変化させることに成功しました。本成果によりビームサイズなどの光学パラメータを大きく変えることで、X線分析の視野や分解能を変更できるだけでなく、分析手法を切り替えることができる多機能型X線分析が可能となります。また、本ミラーは更なる薄型化が可能であり、例えば0.01mmオーダーまで薄くできます。その場合の変形量は、本成果よりもさらに100倍程度大きくなると計算されるため、X線領域だけでなく、可視光など幅広い波長領域で活用できると期待されます。
本研究成果は、2025年6月27日18時(日本時間)付で英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されます。
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注1)圧電単結晶ウエハ:
物質の中には、力を加えると電圧が生じ、その反対に電圧を加えると変形するものがあり、圧電素子と呼ばれている。その中でも圧電単結晶は均質な材料であり、圧電セラミックスなど他の圧電素子と比べて安定性や線形性が高い利点がある。
注2)光学パラメータ可変レンズ:
光学パラメータとして、開口数、焦点距離、アクセプタンスや倍率などがある。通常、X線顕微鏡などで用いるレンズは形を変えることができないため、光学パラメータが固定されている。その一方で、形状可変ミラーをX線レンズとすることで、ミラーの変形によりパラメータを自在に変化させることができる。
注3)分極反転特性:
通常ニオブ酸リチウムは単結晶かつシングルドメインの圧電材料として利用され、材料全体で均一な分極構造を有している。その一方で、基板を加熱したり、特定の元素やイオンを注入したりすることで、材料内部の分極方向を部分的に反転させることができる。
注4)バイモルフ構造:
異なる圧電定数や、熱膨張係数を持つ2層の材料を貼り合わせた構造である。電圧印加や温度変化によって、層間のわずかな変形差により生じる応力を利用して、大きく変形させる。
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Ultrathin monolithic bimorph mirror using polarization-inverted lithium niobate wafer
著者:Takato Inoue(名古屋大学), Junya Yoshimizu, Toma Ueyama, Maaya Kano, Yoshiki Kohmura(理化学研究所), Makina Yabashi(理化学研究所), and Satoshi Matsuyama(名古屋大学 兼:大阪大学大学院工学研究科)
DOI:10.1038/s41598-025-05019-8
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-025-05019-8