名古屋大学医学部附属病院消化器内科 伊藤隆徳助教（筆頭著者、責任著者）、同大学大学院医学系研究科消化器内科学 川嶋啓揮教授、同大学医学部附属病院化学療法部 安藤雄一教授、先端医療開発部 西田一貴 病院助教（現、京都大学大学院 医学研究科 医療統計学）らの研究グループは、国内6施設における非切除進行肝細胞癌（uHCC）患者の情報・検体を用いて、国立健康危機管理研究機構・国立国際医療研究所・免疫病態研究部の由雄祥代テニュアトラック部長（共同責任著者）とともに、免疫チェックポイント阻害薬（ICI）であるアテゾリズマブ（Atez）、分子標的治療薬であるべバシズマブ（Bev）の併用療法（Atez+Bev）において、免疫関連有害事象（irAE）を含む肝障害（治療関連有害事象：TRAE）の予測因子について検討しました。TRAE肝障害の重症例では予後不良となり得ることが知られていますが、irAEの発症前の予兆として報告されている、ICIによる反応性発熱に注目し、その発症がその後の肝障害発症と関連するかを解析しました。その結果、ICIによる発熱が起こった患者群は起こらなかった患者群に比較して、有意に肝障害の発症率が高いことを見出しました。特に発熱が起こった患者群はAtez/Bev投与前や治療中、IL-6を含む特定の液性因子に変化が見られることも明らかとなりました。以上より、uHCCに対するAtez/Bev使用中に発熱が起こった場合は、重篤な肝障害が発症するリスクが高まる可能性があり、発熱発症後の肝機能モニタリングや慎重な経過観察が重要であることが示されました。本研究成果は 2025年6月14日の科学雑誌「Liver Cancer」 （電子版）に掲載されました。

【ポイント】

・非切除進行肝細胞癌（unresectable hepatocellular carcinoma, uHCC）に対してアテゾリズマブ＋ベバシズマブ（Atez/Bev）療法を受けた患者において、治療中の発熱がその後の治療関連肝障害（liver-treatment related adverse events, liver-TRAEs）の発症と有意に関連することが、国内6施設による多施設前向き観察研究（n=99）で明らかになりました。
・発熱があった患者では、発熱がなかった患者と比較して、その後のCTCAE Grade2以上の肝障害発症率が約4.5倍（27.8% vs 6.2%）に上昇しており、発熱は有意な独立したリスクファクター（オッズ比 7.57, 95%信頼区間: 1.83–33.89, P=0.006）でありました。
・発熱を呈した肝障害発症例では、治療前のCXCL5低値、治療後1週・3週のIL-6上昇、6週のCXCL5、IFN-γ、IL-10の低下といった特徴的なサイトカイン変動が観察されました。
・さらに、予後予測バイオマーカーとして、治療前のMCP-1（CCL2）が無増悪生存期間（PFS）・全生存期間（OS）の両方と有意に相関し、予後層別化にも有用であることが示唆されました。

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【論文情報】

雑誌名：Liver Cancer （Karger Publishers）
論文タイトル：Fever Following Treatment with Atezolizumab Plus Bevacizumab Predicts Liver Injury in Patients with Unresectable Hepatocellular Carcinoma: A Prospective Observational Analysis
著者：Takanori Ito^a*, Takafumi Yamamoto^a*, Kazuki Nishida^b, Yumiko Kobayashi^b, Kazuyuki Mizuno^a,c, Takaya Suzuki^a, Shinya Yokoyama^a, Kenta Yamamoto^a, Norihiro Imai^a, Yoji Ishizu^a, Takashi Honda^a, Masatoshi Ishigami^a, Toshinari Koya^d, Sayori Nakashima^e, Takehito Naito^f, Satoshi Yasuda^g, Teiji Kuzuya^h, Hidenori Toyoda^g, Yuichi Ando^c, Sachiyo Yoshioⁱ, Hiroki Kawashima^a
所属：
^a Department of Gastroenterology and Hepatology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan

^b Division of Biostatistics, Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
^c Department of Clinical Oncology and Chemotherapy, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan

^d Department of Gastroenterology and Hepatology, Tosei General Hospital, Seto, Japan

^e Department of Gastroenterology, Kariya Toyota General Hospital, Kariya, Japan

^f Department of Gastroenterology, Toyohashi Municipal Hospital, Toyohashi, Japan
^g Department of Gastroenterology and Hepatology, Ogaki Municipal Hospital, Ogaki, Japan
^h Department of Gastroenterology and Hepatology, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Aichi, Japan
ⁱ Department of Liver Diseases, The Research Center for Hepatitis and Immunology, National Center for Global Health and Medicine, Ichikawa, Japan

DOI: 10.1159/000546967

【研究代表者】

医学部附属病院　伊藤 隆徳 助教

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/gastroenterology/