・がんに集まるマクロファージ注1)が、がん成長に強く関与することが注目されている。
・マクロファージによる死んだがん細胞の“貪食(どんしょく)” 注2)が、がん抑制ではなくがん成長を促進することをショウジョウバエで発見。
・マクロファージの貪食という基本的な機能が、がん成長を助けるという仕組みは、普遍的な現象である可能性があり、将来的な治療標的として期待される。
名古屋大学大学院理学研究科の大澤 志津江 教授と廣岡 依里 後期博士課程学生らの研究グループは、マクロファージが貪食を介してがんの成長を促進するという、これまで知られていなかった新しい仕組みを、ショウジョウバエを用いて発見しました。
がんの周囲に形成される「がん微小環境」注3)にはさまざまな免疫細胞が集まり、なかでもマクロファージは、がん成長に重要な役割を果たすことが近年明らかになってきています。しかし、がん細胞がどのようにマクロファージに働きかけて、がん成長を助けさせているのかは、これまでほとんど分かっていませんでした。
本研究では、ショウジョウバエの悪性腫瘍モデルを用いて解析を行い、がんが成長する過程で生じる死んだがん細胞をマクロファージが貪食し、その結果、貪食したマクロファージが炎症性サイトカイン注4)を放出して、がんの成長を促進することを明らかにしました。
本研究により、マクロファージの貪食が、従来考えられていた「異常細胞の除去によるがん抑制」機能に加えて、状況によってはがんをむしろ促進するという、意外な側面を持つことが明らかになりました。がん細胞と免疫細胞の複雑な相互作用に新たな視点を与えるとともに、将来的にはがんのリスク予測や早期診断、予防的介入に資する治療標的の開発にもつながることが期待されます。
本研究成果は、2025年6月26日午前0時(日本時間)に、米国科学誌『Current Biology』でオンライン公開されました。
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注1)マクロファージ:
免疫細胞の一つ。体内の死細胞や異物を取り込み消化する「貪食」機能を介して、生体内の恒常性を維持する役割を持つ。
注2)貪食(どんしょく):
細胞が細胞を丸ごと取り込んで消化する現象。通常、マクロファージなどの食細胞は貪食によって死細胞を取り込む。取り込まれた死細胞は貪食細胞内のリソソームにおいて分解・消化される。
注3)がん微小環境:
がん細胞と、それを取り巻く免疫細胞や線維芽細胞などによって構成される局所的な組織環境。この環境は、がん細胞の増殖や浸潤を促進する一方で、状況によってはその進展を抑えるという二面性を持つことが知られている。
注4)サイトカイン:
細胞から分泌される生理活性物質であり、シグナル伝達を介して細胞間相互作用に関与する。細胞増殖を促進するような炎症を引き起こすサイトカインは炎症性サイトカインとも呼ばれる。
雑誌名:Current Biology
論文タイトル:Macrophages promote tumor growth by phagocytosis-mediated cytokine amplification in Drosophila
著者: Eri Hirooka1, Ryo Hattori1, Keisuke Ikawa1, Tomoe Kobayashi2,
Makoto Matsuyama2, Tatsushi Igaki3 and Shizue Ohsawa1
(1,名古屋大学、2,重井医科学研究所、3,京都大学)
DOI: 10.1016/j.cub.2025.05.068
URL: https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.05.0680